#714 『遺書コレクター』

「最初は私の親父の書いたものなのですよ」と、藤村氏はそう語ってくれた。

 彼が十六歳の頃、もう長く生きられないと悟ったお父さんは自死を図った。その際に遺書を残したらしいのだが、藤村氏はそれをどう言う扱いをして良いのか分からず、結局は桐の箱にしまったまま残しておいたらしい。

 それから数年後、生活苦にて今度は母親が自死した。その際にも息子の藤村氏に遺書を残したらしいのだが、それもまた同じ桐の箱へとしまい込んだ。それからの事である――

「なんかね、遺書が私の所に回って来るんですよ」と藤村氏は言う。

 それは自殺、病死など死因には関わらず、亡くなった方の遺書が残された場合、何故か自然にそれは藤村氏の元へと運ばれて来るらしい。

「やはり他の方も、どう扱って良いのか分からないんでしょうねぇ」と彼は語る。

「ただ――ね。ある一定数集まった辺りで妙な事が起こり始めたんです」

 何でもその遺書をしまった桐の箱から、頻繁に物音がするようになったらしい。

 最初は軽く拳でコンコンと鳴らしている程度のものが、いつしか全力で殴り付けているかのような音へと変わったと言う。

「でも未だ、どこからか噂を聞き付けて遺書を持ち込む方がいるんですよ」と、藤村氏は笑う。

「私は僧侶でもなんでもないんですけどね」

 と言った辺りで、その桐の箱の蓋が凄い音を立てて吹き飛んだ。そして中からは大勢の人が書いたのであろう遺書が溢れ出し、床へとこぼれた。

 私はそれを目の当たりにした。筆者が体験した話である。

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