#713 『百物語の最終話』
大学の演劇部のメンバー達と、強化合宿と言う名目のキャンプを企画した。
泊まる夜、百物語をやるから各自怖い話を持ち寄れと言う部長命令が出た。
さてキャンプ当日。集まったメンバーは総勢九人。いい加減陽が落ちたであろう時刻からその百物語は開催された。
序盤は皆、気合いを入れた怪談を披露していたのだが、次第に持ちネタが無くなって来たか、その場しのぎの適当な怪談へと移行して行った。
もう最後の方になると、「寝ていたら部屋にお婆ちゃんの霊が出た」とか、「夜道、真っ白な子供を見掛けた」程度の話となり、もはや怖がると言うよりも笑い声の方が断然多くなっていた。
さて、問題の最終話。驚いた事にその百話目は僕が担当であった。
もちろんその頃には僕自身の持ちネタも尽きていて、話はその場で考えた創作話だった。
「今みたいにさ、友人達とキャンプしながら百物語やってる人達がいてさ」
そして百話目を話し終えたら、知らない人が一人増えていて、百一話目を語り出した――みたいな事を話した。すると、「適当な割に結構怖い」と皆が言う。同時に……
「一人足りない」と、誰かが言った。見れば確かに頭数が一人減っており、その場には八人しかいないのである。
一体誰が消えた? いつからいなくなった? そんな事が話される中、「怖いから帰りたい」と言い出す女子が出た。
いや帰れないだろう、消えた奴を待ってなきゃ。でももう無理。こんな怖い場所にいたくない――と意見は分れ、結局夜の山道を辿って下山するメンバーが五人。残りの三人はその場待機と言う事となった。
残る側には僕もいた。一緒に残った部長達と共に、「もう一回、誰が消えたか順を追って考えよう」と、朝まで話し合った。もちろん明確な結論は陽が昇ってもまだ出なかった。
翌朝、軽い食事をとって残った人達で下山した。麓では先に降りたメンバー達が車の中で待っており、そちらもそちらで消えた“誰か”の事を考えていたと言う。
結論だが、消えたメンバーは最初からいなかった。
集まったメンバーは九人であったが、怪異はもうそこから始まっていたのである。
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