#715 『毎年同じ日に撮られる写真』

 S県在住の、Hさんの投稿より。

「――不思議な写真が手に入ったんだけど」と、友人のUから連絡が入った。

 なんでもそれはフィルムカメラに中に入りっぱなしになっていたネガらしいのだが、現像してみればどの写真も全て“とても奇妙”だったそうなのだ。

 僕はUと都内の喫茶店で落ち合う。そこで見せてもらった写真は、確かに変なのである。

 それはどれも同じ場所を撮ったもの。但しその写真の端に印字された日付を見れば、全て一年置きに撮られた八月十四日。要するに、毎年恒例の一枚が綴られただけの数枚の写真の束と言う訳だ。

 そこに写る光景は、どこかの日本家屋の一室。畳敷きの床と向こうに見える襖。そして右手には閉まった障子戸が見える。

「ここって、どこなのか分かるの?」と僕が聞けば、Uは黙って頷く。

「もうすぐ八月十四日じゃん? 良かったらその日に、その場所に行かないかなって」

 言われて僕は賛同した。「是非」と。

 ネガと、現像された写真は僕が持ち帰った。写真は四枚あり、1999年から始まって2003年までの四枚が存在している。そして撮影日は全て同じ八月十四日。ネガを見れば同じ一本のフィルムで撮られたものであり、保管期間が長かったせいだろう写真自体が不鮮明なのが頷ける。

 写真自体には特に変わったものは写っていない。どころか、どうしてこんな場所を四年もの間写していたのかが気になる所だ。

 さて、八月の十四日当日。Uは車で僕を迎えに来た。目的地はそう遠くないものの、駅からかなり歩くので車が良いだろうと言う判断だったらしい。

 着いた先は誰も住んでいないだろう古い日本家屋。どうやらそこの持ち主に鍵を借りていたらしい、堂々と玄関のドアを解錠し中に入って行く。

「ここだね」と言われて向かった先は、確かに写真に写る見覚えのある場所だった。

「この正面に写る襖の奥は、実は仏間になっている」と、Uはそこを開けて見せてくれる。確かに仏間で、仏壇もまだそこに残っている。

「じゃあ同じ条件で撮ろうか」と、Uはポケットからカメラを取り出した。何でも例のネガが入っていた問題のカメラらしい。

 写真と見比べながら、「ここだな」とUはシャッターを切る――が、何も起こらない。

 一通り家の中を探索し、外へと出る。地元へと到着し、フィルムを写真屋に預けると、プリントが終わるまでファミレスで落ち着く事にした。

「実はあの家、一家全員が失踪してしまった家なんだよ」とU。

 でもたまたま別の場所で暮らしていた人がおり、その人があの家を継ぐ事となったのだが、どうにも気味が悪くて住めなかったのだと言う。

 カメラは、その人の兄が使っていたものらしい。そしてその兄がどうしてあんな写真を撮っていたのかも分からないらしい。

 それから少しして写真を受け取りに向かった。写した写真には何も写ってはいなかった。

 そこには部屋の風景すらもなく、ただ真っ黒なだけの一枚がそこにある。

「ここ……この端。僅かに白いよね」と、Uは言う。見れば確かに写真の右上部分だけがうっすらと白いのだ。

「これ、何も写ってない訳じゃなくてさ」と言った所でUが口を噤む。

 言いたい事は理解出来た。もしかしたら至近距離でカメラを覗く“誰か”がいたのではないかと言いたかったのだろう。

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