#102 『石』

 小さい頃に、人の顔の形をした石を拾った事がある。それがあまりにも人の顔そのもの過ぎて、これは凄いものだと思い込み、黙ってポケットに忍ばせて家まで帰った。

 それから少しして、またしても人の顔の形の石を見付ける。二度も見付けたならばもっとあるかと思い、地面ばかり見て歩く。すると不思議な事に良くあちこちで同じような石を拾うようになった。

 いつの間にか私の部屋は石だらけになった。さすがにこのままだといずれ見付かる。どうしようかと思案した結果、家の裏手の薪小屋に目を付けた。もう薪などは使わなくなって久しく、空きっぱなしの状態の小屋だからだ。

 石はその小屋の棚に並べた。以降もあちこちで石を拾い、せっせとそこに運び入れた。

 しばらくすると、近隣から苦情が入った。お宅の声がうるさいと。今までそんな事は言われた事なかったし、そんなにうるさくしているつもりもないと母は答えたが、どうやらうるさいのは裏にある薪小屋の事らしく、不思議に思った母と祖父は小屋を確認しに行った。

 そうして二人は悲鳴を上げ、腰を抜かして小屋から出て来た。すぐに近所のお坊さんが呼ばれるも、お坊さんも同じく「こりゃかなわん」と飛び出て来て、その方の仲間達なのだろうお坊さんが更に三人呼ばれ、計四人で小屋の前で経を上げ始めた。

 代わる代わるで二日間、ようやく終わったと思えば、私の大事にしていた石は全て運び出された。

「それどうするの?」と聞けば、「うちで預かるよ」とお坊さんが言う。

 どうやら少しして、そこの住職さんは本当に、石専用のお堂を寺の傍に建てたらしい。

 私はそれを一度も見に行ってはいない。なにしろ私だけ、そのお寺に近寄ってはいけないらしいからだ。

 どうでもいい事だが、石はまた集まりだして、今はもう置く場所が無くなりつつある。

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