#237 『吹き抜ける家』
家の内見をしていた時の事だ。とあるマンションの2DKを紹介された時、ふわりと首筋に風を感じたのだ。
普通に考えればとても奇妙な事で、普通ではないのである。なにしろどこの窓も閉め切りだったし、当然エアコンも点いてはいなかったのだから。
だが、何故かその時の僕にはその風がやけに心地良く、訳も分からずにその部屋に決めてしまった。
引っ越しが終わり、一息付いたなって所でふわりと風がやって来た。やはり前回同様、とても気持ちがいい。その風を感じながら椅子でのんびりしていると、いつの間にか眠ってしまっていたらしく、気が付けばもう夜となっていた。
いよいよこの部屋は変だぞと思ったのは、引っ越しが済んだ三日目の事。調度品を移動しようと、ラックを壁にぶつけてしまった瞬間、「びゅぉぉぉぉぉぉ――」と、まさに部屋中に風切り音が轟いて、僕はその場で尻餅を突いてしまった。
すぐに不動産会社に連絡した。この部屋、変ですよねと聞けば、「どの辺りがですか?」と聞き返される。
「窓も開けていないのに突風が通り抜けるんですよ!」言えば向こうは、いかにも可笑しいと言わんばかりに笑い声を上げていた。
管理会社はあてにならない。思って今度は除霊を試した。大きな盛り塩を皿二つに作って、玄関へと向かう。するとドアの前まで来てまさかの突風。皿の塩は散らばって消え失せていた。
その後もいくつか除霊の類いを試してみたが、結局どれも効果無く、根負けして僕の方で折れる事に決めたのだ。
風と同居すると言うのもなかなか聞かない話ではあるが、家を粗末にしない限り突風は吹かないし、さほど問題はないかなぁと思う今日この頃。
真夏にベランダ側の窓を開け、ビールを片手にハワイアンの曲を流す。部屋の“内側”からは、涼しげなそよ風。なかなかいいものだなと思った瞬間、手が滑ってビールを床にぶちまける。
突然の突風。僕は顔中にビールのしぶきを浴びながら、風ってどうやって追い出せばいいのかなぁと考えていた。
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