#725 『312号室』
私はとある病院にて婦長をしている。
ある日の事、待ち合い室に不審な人がいるとの連絡を受けて見に行った。
それは茶髪の若い男性で、いかつい見掛けによらずソファーに腰掛けながらべそべそと泣いているのである。
「どうされました?」声を掛けるとその男性は、「すみません」としきりに謝りつつ、「以前にここで彼女を亡くしていて」と話すのである。
何でも二日前から彼女の夢を見るようになったらしい。そしてその彼女はこの病院のベッドの上で身を起こしながら、「迎えに来て」と言うのだそうな。
私はその彼女の名前を聞く。いつ頃亡くなったのかを問えば、確か去年の今頃だったと男は言う。
そして私は病院の記録を探すと、確かにその名前の女性がここで亡くなっていた。しかもそれはきっかり去年の今日の事である。
病室を見れば“312号室”とあり、そこで奇妙な偶然に気付く。そう言えばどこの病室も満員なのに、何故か妙なタイミングで、そこの病室のベッドだけは二日前から埋まらずにいるのである。
私はその男性を連れて312号室へと向かう。すると病室へ入るなり空いているベッドを見て、男性は号泣を始めた。そしてしばらくそこで泣いた後、「連れて帰ります」と、男性は深々と頭を下げて出て行った。
不思議な事もあるものだなと思っていると、その日の夕方頃にまたしてもその男性と会う事となった。
ストレッチャーで運ばれて来たその男性は、服毒自殺を図ったらしい。
結局、胃洗浄をしてみたものの意識は戻らず、男性は312号室のベッドの上で亡くなった。
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