#724 『苦情』

 借りているアパートメントの件で、不動産会社から僕の方に苦情が入った。内容はとても単純で、「音がうるさい」との事。

 僕としては事、音に関してだけはとても注意しながら生活しているだけに、「どうして?」と言う気分だった。

 もしかしたら仕事中に掛けているBGMがうるさいのかなと思ったら、どうやらそうではないらしい。音の主たるものは、話し声、笑い声、そして足音と家具を引き摺る音など。

 聞いてもどれもピンと来ない。「あの部屋は僕一人で使っておりますが?」と返答する。

「なるほど、ではそのように隣室の方には伝えておきます」と電話を切ったのだが、それからすぐにまたその不動産屋から連絡が来た。どうやら先程の返答で、隣室の方が怒ってしまったらしい。「ならば一度お逢いしましょう」と告げ、不動産会社の方と一緒にお隣へと伺う事になった。

「本当に酷くうるさいんだよ」と、隣の男性は上気した顔で言う。

 それに関しては申し訳無いと頭を下げつつ、「それは常にですか?」と聞けば、「夜がうるさい」との事。

 やはりそれは僕じゃないと確信する。その部屋は仕事場として使っているだけで、夕刻、陽が落ちる前にはそこを出て、家に帰っているからである。

「ちなみにそれはいつ頃から?」

 聞くと、「もう三年以上も我慢している」との事。

 さすがに不動産会社の人も顔色を変える。なにしろ僕が越して来たのはまだ三ヶ月程前なのだから。

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