#428 『ファインダー越しの崩れる世界』
みっどないとだでぃのフォロワーさんである、“ゆーろ”さんと言う方の体験談である。
全八話あるのだが、今回は連続三夜に掛けてそのお話しを紹介させていただきたいと思う。
――まだ私が小さかった頃の記憶である。ある時、家を新築し、その記念で写真を撮る事になった。
おそらくは知り合いの方なのだろう、若いお兄さんが一人、家へとやって来た。
お兄さんは庭先に三脚を立て、カメラを設置する。私はそれが物珍しく、ずっとその作業を間近に見ていた。
突然、お兄さんは場所を離れてどこかへと行ってしまった。私はそれをいい事に、カメラに近付いて、手で触れないようにしてそのファインダーを覗き込んだ。
そこには我が家も全景が映っている。なるほど、こんなふうに写るのねと感心していると、突然そのファインダーの中で、家が轟音を立てて崩れ落ちたのだ。
咄嗟に顔を上げる。だが家は元のままで、どこにも変化は見られない。
何事だと思って再びファインダーを覗こうとすると、そこを母に見付かり、こっぴどく叱られてしまった。
カメラマンのお兄さんは、笑いながら「いいんですよ」とは言ってくれたのだが、結局二度目は確認が出来なかったのだ。
だが私はその瞬間の事を鮮明に覚えている。かなり不思議な話ではあるが、あの崩れ落ちる瞬間の轟音は、私の脳内だけで響いていたのだ。
私はその出来事を、あのカメラマンのお兄さんが何かの細工でファインダーに映像を流し、私をからかったのだと勝手に解釈し、記憶上から封印した。
それから少しして、近隣の住宅地に高速道路が掛かると言う計画話が持ち上がり、十年後には私の家も区画整理の範囲内に収まって、立ち退きとなってしまったのだ。
そうして私が高校生となる頃、たまたま元の家の裏手を通り掛かり、ちょうど家が取り壊される瞬間を目撃する事となった。
轟音と共に崩れ落ちる元の我が家。見る方向は違っていたが、その音も崩れ方も、まさに私が小さい頃、ファインダー越しに見た風景そのものであった。
それから更に十数年が経った。もはやどこに私の家があったのかすら分からないぐらいに変貌した街並みの中、私は「この辺りだろう」と見当を付け、自前のカメラのシャッターを押す。
だがもう、私の目もそしてカメラも、何一つとして変わったものは写さなかった。
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