#239 『中途半端な廃墟』

 家の近くに、とても中途半端な廃墟がある。

 一見すればただの廃墟なのだ。門は閉まりっぱなしで庭は草が伸び放題。あちこちにゴミが散乱し、家自体が“死んでいる”と言った雰囲気を醸し出している、和風建築の一軒家だ。

 それでどこが中途半端なのかと言うと、そんな家であると言うのに、未だ電気が通っていると言う所だ。

 夜になると分かる。他の部屋は真っ暗なのだが、二階の廊下の奥の方がぼんやりと光って見える。誰かがそこにいるのかどうかも分からないのだが、とにかくまだ電気は通っている、誰かが電気料金を支払っていると言う部分で、完全な廃墟とならずに現存しているのだ。

 実は数年前、俺がまだ高校生だった頃、悪友のTと一緒にその廃墟に忍び込んだ事があった。まだ早い時間で、もう間もなく夕方になろうとしている時刻だった。門を乗り越え玄関へと向かう。噂通りに玄関は施錠されておらず、簡単にそれは開いた。

 家の中はとても荒れていて、完全な空き家然としていた。床に散乱しているものを見る限りどれも古いものばかりで、時間の経過をそこで知る事が出来た。

 玄関のスイッチに触れる。ブーンと頭上から音がして、少し時間を置いて照明が灯った。確かに家の電気は通っているのだ。

「これ、まだ誰か住んでるのかな?」と友人。

「いや、住んでいたらこんなに埃積もらないだろう」と、俺は玄関の上の廊下を指でなぞる。少なくともここ数ヶ月は誰も侵入していない事が分かる。

 いくつか部屋を覗いてみる。どこの部屋も家具が崩れて物が溢れ、床は歩けないほどに雑然とし、荒れていた。

 一通り一階を見回った後、俺らは二階へと向かった。外からも確認出来る、照明の灯る部屋を廊下の先に見付けた。まだ夕方と言う時刻なのに、そこだけがやたらと明るく見える。俺と友人は足音を忍ばせ、その灯りがともる部屋へと向かう。

 そうして、部屋の中を覗いて驚いた。そこだけは全く他の部屋とは違って、綺麗なのだ。

 畳敷きの和室。散らばった物など何一つ無く、むしろ調度品の一つも置いていない閑散とした部屋だった。ただ一つ、その部屋の中央に敷かれた布団だけが異彩を放っており、異常とも思えるほどの存在をそこに感じた。

 直感で、「ヤバい」と思った。布団は膨らみを持ち、確実にその中に“誰かがいる”と想像させた。普段ならば悪ふざけで「見てみようぜ」と言い出すだろう友人のTも、「逃げよう」と言い出すぐらいには畏怖を感じていたらしく、俺らは足音を忍ばす事すら忘れて家から転び出た。

 翌日から、俺はその家の事を調べ始めた。だが詳細は一向に掴めず、近所の人に聞いても「分かんないのよねぇ」と言われるばかり。そうしてやがて、そこの家への興味は薄れた。

 数年経って、たまたまその前を通り掛かった際に、家から飛び出して来る青年数人を見掛けた。俺が声を掛けると、遊び半分で侵入したら、二階の部屋で転がる死体を見付けたと言う。

 警察が来て、遺体も引き取られて行ったらしい。何でも噂では、死後十年はそこで放置されていた遺体だったと聞く。

 ならば俺らが侵入した時は既に遺体だったのだろうが、どうしてその家の電気代が支払われていたのかだけは、未だに不明のままである。

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