#294 『片付けてはいけない』
女子校にて、バスケットボール部に入っていた時の事。
入部して数ヶ月経ったある日、私達一年生全員が、三年のキャプテンに呼び付けられて部室へと急いだ。
「掃除がなってない」と、開口一番に怒られた。
なんでも、ほぼ毎日のようにバスケットボールが一つだけ、体育館の隅に転がっているのだと言う。
「朝練で出て来ると必ず見掛ける。注意するように」ときつく言われ、私達は渋々と頷いた。
正直、身に覚えは無いのだ。掃除の順番から行けば、まずはボール片付けから始まり、そしてモップ掛けだ。モップはコートの端から端まで掛けて行く。その際にボールの拾い忘れがあれば、誰か一人ぐらいは必ず気付く筈なのである。
「また転がってた」と、その翌日も怒られた。私は勇気を振り絞り、掃除の手順を話して、「有り得ない」と言う事を伝えれば、キャプテンも首を傾げて、「言われてみればおかしいな」と真顔で言う。
その晩、練習が終わった後、キャプテン自ら掃除で居残ってくれた。
全て片付け、モップも掛け終わり、さあ帰るかと体育館の電源を落とす。
「これでまた明日の朝もボールが転がってたら、きっと幽霊の仕業だな」とキャプテンは笑い、重いドアを閉めようとしていた時だ。
トーン、トーン、トーン――トトトトトト、と、真っ暗で静かな体育館のどこかで、ボールの跳ねる音。
キャプテンは「閉めろ!」と叫んでドアを閉じ、私達は悲鳴を上げて逃げ帰った。
以降、キャプテンの指示の元、掃除は全員で行う事と、ボールの片付けの不備についての不問が言い渡された。
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