#218 『捨て✕✕』

 東京の奥多摩市での出来事。

 付き合い始めて間もなくの彼女と、奥多摩湖までドライブへと出掛けた。

 生憎、到着と同時に雨が降り出し、空もどんどん暗くなって行く一方だったので、適当な所で引き返す事にした。

 途中、砂利が敷き詰められた路肩の広い道へと出たので、そこに車を停めて休憩をした。

 近くに自動販売機があった。彼女が何か温かいものを買って来ると言い、傘を開いて出て行ってしまった。だが、何故か彼女は手に何も持たずに帰って来る。

「どうしたの?」聞けば彼女は、「自販機の横に“何か”捨ててある」と言う。

「何かって、何?」尚も聞けば、「犬か猫? 良くわかんない」と首を傾げる。

 仕方なく僕も車を降りて見に行った。すると確かに自販機の横に、段ボールの箱が置いてある。上蓋は降り畳まって閉まっている。当然中は見えないが、確かに中に“何か”がいる。時折ごそごそと動いたり、上蓋が撥ね除けられそうな勢いで持ち上がったりするからだ。

「どうしよう。拾って帰った方がいいのかな」と彼女。果たして犬や猫を飼った事があるのかどうかは知らないが、この雨の中で捨てられているのを気の毒に思っての事なのだろうと察し、「下手に拾わない方がいいよ」と、僕は忠告した。その時だった。

 ――いや、拾えよ。――うひひひひひ。――声出すなや馬鹿たれ。と、密かな声で箱の中から数人分の声がした。しかもそれは完全に、成人した男性の声そのものだった。

 慌てて僕らは車へと引き返した。今の、何だったんだと口々に言い合っていた所で、もう一台、車が脇に停車した。

 家族連れの車だった。先程の僕らと同じように自販機の前まで行き、段ボールの箱を見付ける。

 小さな女の子二人が、箱から子犬を取り上げ嬉しそうな顔をしていた。

 きっとあの家族は、あの子犬を拾って帰るだろうと想像出来た。

 子犬は、計三匹いた。

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