#131『死神と彼女』
一緒に外を歩いていると、彼女は時折、視線で通りすがりの人を目で追っている事がある。
最初の頃は理由を教えてくれなかったが、最近になってようやく少しずつ話し始めた。彼女には、人の“死期”が視えると言う事を。
なんでも、死期が近付いた人の目は、黒く濁り始めるのだそうだ。しかも末期ともなるとその両目と口からは、濃厚な“漆黒”が、固まった霧のように流れ出てくるらしい。
「それって、もしかしたら人助けになるんじゃないの?」と、僕が聞けば、彼女は渋い顔で顔を横に振る。なんでも過去に数度、同じ事を思って人の死を未然に防ごうと関与した事があったらしい。
「死は、もう決まってるの。無理にそれを邪魔すると、今度は死が別の人に移るだけ」と、悲しそうな表情をする。昔、友人の彼氏の死を予兆し、それを防ごうとして友人そのものを失った事があると言う。それ以降、人の死に関与はしていないらしい。
「そう言えば、一度だけ不思議な体験をした事がある」と、彼女は言う。夕暮れのオレンジ色に街が染まった頃、すれ違った子連れの母親の目と口から、“漆黒”がだらだらとこぼれ落ちているのを見てしまった。子供は女の子で、小学校の低学年辺り。但し女の子の方にはその予兆が無い。
こんなに小さいのに、母親を亡くすなんてと痛ましい想いですれ違う。何も知らない女の子は、無邪気に笑いながら母親に何かを話し掛けている。通り過ぎて少しして、二つの違和感に気付いた。背後でがちゃがちゃと聞こえる金属音と、その女の子が無邪気に話し掛けている内容。
振り返ると同時に、その母親は金網を越えて橋から飛び降り、真下の線路にダイビングをしていた。女の子は満足そうに、金網越しにそれを眺めていた。
「多分、あの子は死に神だったと思う」と、彼女は言う。
ここがいいよ。ここなら楽に死ねるよと、確かにその女の子は、そう言っていたのだと言う。
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