#130 『空白地帯』

 昭和五十年代の頃のお話し。その頃に住んでいた我が実家は、近所でも評判の奇妙な家だった。

 もしかしたら違法建築にでも当たるのではないかと言うぐらいに奇天烈で、計四つの家が無理矢理に部屋や廊下でくっつけられている、寄せ集めの仮設住宅のような造りになっていたのだ。

 例えば押し入れのような場所の襖を開ければ隣に続く坂道の廊下だったり、風呂場に入ると真正面にもドアがあって、そこを開けると隣の家に繋がる物置小屋だったりと、とにかく家全体が複雑な迷路化しているような家であった。

 ある時から、家で妙な現象が起こるようになった。どこからともなく聞こえるうめき声。ドンドンと壁を叩く音。そしてガリガリと何かを削るような音。その現象は半月ほどで収まったが、今度は家の中を彷徨い歩く、謎の足音が聞こえて来た。

 さすがにこれは悪霊か何かの仕業だと言う話になり、父がとある霊能者の元を訪ねた所、「家の中心をくまなく探せ」と言われたと言う。

 さすがにこれは困った。家の中心と言われても、どこが中心なのかが分からない。なにしろ元は四つの隣接した家なのだ。中心を探せと言ったならば、それは合計四つもある事になる。どうしたものかと思案していた所、当時まだ小学生だった妹が、殴り書いた家の見取り図を皆の前に広げると、「ここじゃない?」と、とある一点に丸を描いた。それは確かに家の中心で、四つの家が廊下と部屋で繋がって出来た大きな家だと仮定すると、まさにその中心、繋がる廊下に隠れ埋もれてしまった空白部分を指していた。

 一応確認はするかと、父が二階の庇(ひさし)部分から屋根に登り、上からその空白地帯を確認すると、「ひあぁぁぁぁ」とやけに情けない声を上げて尻餅を突いていた。

 やがて警察が到着する。どうやらそこに落ちてしまったのは、空き巣か何かだったらしい。既に亡くなってから数日が経過しており、腐敗も始まっていたそうである。

 要するに最初に聞こえたうめき声やノック音は、かろうじてまだ生きていた泥棒が、必死に助けを求めていた際の物音だったのだろう。

 そこまでは納得するが、では後半の家の中を歩く足音は?

 それから半年も待たず、その迷路のような家は取り壊された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る