#518 『乗り換える』
私は趣味でフィルムカメラを使っているのだが、ある時現像に出した写真の中に、とびきり怪しい一枚が混じっていたのだ。
最初は全体的に白くもやったミスショットだと思っていた。だが良く良く見てみればそれは白く透き通った男性の顔のアップのようで、私は慌てて友人の一人に連絡を取る。
「飯田君? 私だけど――」と、大学時代に知り合った男の子に、事の次第を告げる。
すると飯田君は、詳しく説明をしていないのに、「それって至近距離から撮った、男の人の顔でしょう?」と、言い当てるのだ。
飯田君はすぐに私のアパートまで来てくれた。そして私が玄関を開けると同時に、「うっ」とうめいて口を押さえる。
「こりゃあとんでもないもの写したね」と飯田君は言い、部屋へと上がる。
そうして私は「これを見て」と写真を取り上げるのだが、飯田君はその写真を直接には見られないからと頑なに拒み、「紙に書いて説明して欲しい」と言うのである。
仕方無く私はその写真をノートに模写し、こんな感じだと、絵と言葉で説明をした。
すると飯田君、「さすがにこれは僕の手には負えない」と、私を連れて知り合いのお祓い師さんの所に案内してくれた。
「これが問題の写真なんですが」と、バッグから写真を取り出せば、その祓い師さんはそれを一目見るなり、「祓う必要も無い程度のものですよ」と笑い、それでも簡単にお祈りを上げ、写真を供養してくれたのだ。
お祓いはとても手短に終わった。それには飯田君も拍子抜けし、「僕が大袈裟だったのかなぁ」と首を傾げていた。
飯田君とは私のアパートの前で別れた。夜も遅かったので、部屋には上がらず帰ったのだ。
そして私は部屋のドアを開ける。手探りで照明のスイッチを押せば、狭いワンルームの中に立ちはだかる痩せぎすな男の姿があった。
私は悲鳴を上げて玄関から転がり出る。するとその悲鳴を帰り道の中で聞いたのか、飯田君は取って返して私の部屋へと駆け付けて来てくれたのだ。
そして部屋の中を見て、再び「うっ」とうめいて口を押さえる。
すると飯田君、念仏のような何かをぶつぶつと小声で囁きつつ部屋の中へと踏み込めば、その男性の姿はすぐに白く濁って消えて行ってしまったのだ。
「こりゃあ乗り換えられたな」と、飯田君。見ればさっきの男性が立っていた辺りのテーブルの上に、私が例の心霊写真を模写したノートがあったのだ。
開いてみる。絵の構図は、少しだけ変わっていた。こちらを見つめていただけのものが、うっすらと笑みを浮かべているような表情となっていたのである。
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