#577 『夢見る女と祓われる男』

 いやな夢を見たのだ。それは全く見ず知らずの中年女性が私の夢に現れて、その女性が延々と私を睨んでいると言うもの。

 怖い顔ではない。むしろそれは哀れみの表情だった。

 女性はただひたすら私を見ているだけ。そして私自身も全く目を逸らす事なくその女性を眺めていた。

 翌日もまた同じ夢を見た。そしてその翌日も、更にその翌日も――

「なんかおかしいんだよ」と、会社の同僚であるMさんにその事を話すと、「一回、“視て”もらった方がいいんじゃない?」と言うのだ。

 なんでもそのMさん、友人に霊能力者がいるらしく、大抵の事はその人に相談するようにしていると言う。

 胡散臭いが仕方無い。私はMさんの伝手でその霊能者さんを紹介してもらったのだが、その霊能者さん曰く、「男の人が憑いてます」と言う。

 いや、私の夢に出て来るのは女性だ。言おうとも思ったのだが、それだと今度は同行して来てくれているMさんのメンツを潰す。しかも無料と言う事だし、その場は反論せずに黙って祓われて終わりにする予定だった。

 さて、そんなお祓いが済んだその夜。夢にはまたしても例の女性が現れた。

 だが、いつもと少々様子が違う。女性の表情は哀れみのそれではなく、どこか晴れ晴れとした笑顔だったのだ。

「ひぃぃぃぃぃ――」と、私は自分の悲鳴で目が覚めた。同時に私はまた別の事で悲鳴を上げる。

「ぎゃあぁぁぁぁ――!!!」

 起き上がったベッドの上、部屋の片隅で体育座りをしながら恨めしそうにこちらを見ている男性の姿を見てしまったからだ。

 翌朝、会社へと向う。そして昨夜起こった出来事を同僚のMさんに話そうと思っていたのだが、何故かMさんはそんな私を曇った表情で眺めている。

「どうかしたの?」と私が聞けば、「なんか複雑な事になってるね」とMさんは言う。

 その日の定時後、私は無理矢理にMさんに引っ張られ、昨日の霊能者さんの元を訪ねた。

「ごめん、なんか余計な事しちゃった」と、霊能者さん。

 またしても祈祷が始まったのだが、今度はそのお祓いの内容を聞かされない。

 結局、その日以降は夢に女性が出て来る事も無くなり、部屋の片隅に男性が座っていると言う事も無くなったのだが、一体私の身に何があったのかだけは教えて欲しかったなと今でも思うのである。

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