#85 『むかさり』
友人のK子が突然の発作で亡くなった。享年二十六歳であった。
K子には、S君と言う結婚を約束した男性がいたのだが、彼もまたK子の死を嘆き悲しみ、心神耗弱のために入院する程であった。
形見分けの際に、K子の日記が本棚から見付かった。プライベートな部分なので見る事には気が引けたが、結局K子と仲の良かった友人だけでそれを読む事に決め、私もその中に含まれていた。
日記は終始、S君との未来展望について書かれていた。亡くなる直前辺りの日記はほとんど彼との結婚生活を望むものばかりで、私達はいたたまれなさばかりを感じていた。
「ねぇ、せっかくだから」と、友人の一人が声を上げた。仲間内だけでK子とのお別れ会をひらく予定だったのだが、それを変更してK子の結婚披露宴パーティにしようと言う話になったのだ。
その話はどうやら余所にも漏れて、結局パーティ自体は約二十人ほどの規模で行われる事となった。
S君は依然、ショックの為に入院したままなので出席する事が出来ず、結局彼の承諾も得ず、ご両人不在のままの結婚式となってしまった。
カラオケ屋のパーティ会場を貸し切りにしての、二人の馴れそめ動画試写会や、代役を立ててのケーキ入刀、そして誓いの言葉と指輪の交換などが執り行なわれた。
S君がK子と同じ呼吸器系の発作で急死したのは、まさにそのパーティの最中だったらしい。
後に、私達発起人が、K子の親類筋のお坊さんより、その件でこっぴどく怒られた。
死者との婚姻は「むかさり」と呼ばれており、「迎え、去る」事。かなり危険な呪術の一つとして、やってはいけない禁忌なものだと教わった。
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