#497 『轢かれ続ける人』
中距離のトラックドライバーをしている。
ある日、I県までの荷物を積んでトラックを走らせた。
深夜に近い時刻、G県のとある街の中を通る。日中は商店街として賑わっているであろうと想像出来る街道だったが、夜の道路の両側にはシャッターの降りた店が並んでいた。
突如、目の前の横断歩道に人が飛び出して来た。咄嗟に、「避けられない」と覚悟をした。
酷い急ブレーキの音を轟かせ、車は急停止をする。だが、前輪から続く後輪への違和感。確実にトラックは、“何か”を轢いた感覚があった。
やっちまったと思いトラックを降りるも、何故かどこにも人らしき姿が無い。
車体の下を覗き込み、近くの歩道や道路脇を確かめるのだが、やはりそれらしきものが何も無い。もしかしたら最後の力を振り絞ってどこかへと立ち去って行ってしまったのか。俺はすぐにでも警察を呼ぼうと公衆電話を探すのだが、困った事にそれも見付からない。
逃げる訳じゃないからなと自分に言い聞かせ、再びトラックへと飛び乗ると急いで車を走らせた。十分程走ると、向こうに二十四時間営業のドライブインが見える。俺は急いでその前にトラックを停め、「電話を貸してくれ」と店の中に飛び込む。
店の中には、暇そうにしている店主の他に、客らしき姿が二、三人程いた。けたたましく入って来た俺を一斉に睨むが、電話の受話器を上げて「人を轢いた」と110番通報をすると、何故か誰もが俺を見て、にやりと笑ったのだ。
受話器越しに「場所はどこですか」と、質問される。俺はどこそこの商店街だと告げると、何故か電話口の向こうの警察官は、「あぁ」と声を上げ、「誰もいなかったでしょう?」と質問をする。
見れば店の中の客もまた、苦笑を漏らしつつ、「切れ」と、受話器を降ろす仕草をしている。
警察官は、「一応、現地まで向かいますね」と慌てる様子も無く言うと、俺の名前と連絡先だけを聞いて電話を切ってしまったのだ。
「やられたな」と、先客達が言う。それは事故扱いにならないから、先を急ぐといいよと諭された。
全く意味が分からないまま、俺は積み荷を無事に降ろし、その翌日は明るい内に例の現場を通った。
昨夜の、人を轢いたであろう歩道へと差し掛かる。そこで俺はとんでもないものを見てしまう。
その歩道のある両側のガードレールは、幾度も車がぶつかったのであろうほどにクシャクシャと折れ曲がり、歩道の前後には道路が黒く見える程のスリップ痕が、大量に残されていたのだ。
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