#707 『消えた誰か』
友人達とバス旅行へと出掛けた時の事。
長い旅を終え、解散地点である某駅にバスは停車した。
私達友人グループは、一番最後にバスを降りた。そして車体横のドアから荷物を受け取ると、運転手さんが、「あれっ、もうおひと方は?」と聞くのである。
見ればその荷台には小さめの鞄が一つ取り残されており、運転手さん曰く、そこは我々のグループの荷物入れなのだと言う。だが――
「いえ、全員いますので」と、友人の一人がそれを否定した。だが今度はバスガイドさんが、「でも六名様でしたよね?」と聞いて来るのだ。
「いえ……五人、です」と友人。だがその言葉の響きに、少しだけ自信の無さを感じた。
確かに我々は五人グループである。だがそこに何かしら引っ掛かりを感じたのは私だけではなかった様子だった。
帰り際、私達は全員で某ファミレスに落ち着いた。そこで我々は待ちきれなかったとばかりに今しがたの出来事について話し合った。
「六人、いたような気がする」
友人の一人がそう言うと、誰もが無言で頷いた。なんとなくだが、六人で符合する出来事がとても多かったのだ。
まずは二人乗りのリフト。誰もが「二人で乗った」と証言している。次に昼食だが、「六人掛けのテーブルで全員が座った」と言う意見も一致した。
だが帰りのバスでは、「私一人で席に座っていたよ」と言う友人がいて、その辺りから話が合わなくなって来る。
「そう言えば」と、友人の一人がバッグから一枚のレシートを取り出した。見ればそれは早朝の集合場所付近で、全員がアイスコーヒーを買った時のレシート。それは確かに、コーヒー六人分の印字がされていたのである。
やはり朝の時点では六人だった――では一体どこで消えた? そしてそのもう一人は誰だ?
元より大学のサークルメンバーばかりで構成されているのだから、他の人を誘う訳が無い。そうしてサークルメンバーの人の名前を一人ずつ挙げて行くのだが、「一緒に来たのはこの子だ」と言える人は全く出て来ない。結局その日は、何もかも曖昧なままでの解散だった。
翌日、私はサークルに顔を出し、「なんとなくだけど、途中で寄った滝の辺りから五人になった気がする」と言うと、誰もが「そんな気がする」と頷いてくれた。
後日、バス会社に連絡をして、最後に残ったバッグの中身をあらためて欲しいと願い出た。するとその中には運転免許証が入っていたらしく、そこに書かれた名前を読み上げてくれた。
“×井花織”
――聞いたがやはり、誰もそんな名前の子は知らないのである。
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