#711 『目的地』

 私が小学生だった頃の話だ。

 学校で遠足があった。そしてその当日、私は遅刻をして学校まで車で送ってもらう事となった。

 運転するのはお母さんだ。母はあまり運転は得意でもないものの、必死にハンドルを握り、「大丈夫、間に合うからね」と私を慰めてくれていた――が。

 どうにも辿り着かない。歩けば二十分弱。車ならば五分と言う距離である。なのにどうあっても辿り着かないのだ。

 道は住宅街を走るのでくねくねと曲がりくねっているのだが、とある地点まで来ると再び同じ道に出てしまっているような感覚がある。

 絶対にループしている! とは言い切れないのだが、なんとなくそんな気分にさせられるのだ。

 もう間に合わない――とは思うものの、何故か時間は進んでおらず、車載の時計は遅刻三分前を行ったり来たりしているように感じる。

「ここ、さっき通った」

 言うと母は、「そうだね」と小さな声で頷く。が、やはりまた少し進むと同じ道へと出てしまう。

 なんとなくだがそんな事を三十分ほど繰り返していたように感じる。やがてそのループを抜けたかようやく学校が近付いて来た瞬間、「どうしても行くの?」と母に聞かれた。

 私は迷わず、「やめとく」と答える。そして私と母はそのまま家へと帰り、遠足は病欠扱いにしてもらうよう連絡を入れた。

 さて、肝心の遠足の方だが。結局何事もないまま同級生達は帰って来たらしく、今朝の出来事は何だったのかまるで分からないのである。

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