#426 『現像されたポジフィルム』
中古のフィルムカメラを買ったのである。
さて使ってみようかと思えば、まだ中にフィルムが残っている。どうやら前の所有者がそこに忘れたままらしい。
僕はそれを取り出し、少し迷った挙げ句、写真屋さんで現像を頼んでみた。
後日、それは現像から上がったのだが、写真屋さん曰く、「あまり気持ちの良いものじゃないよ」と言う忠告入りでそれを渡してくれた。
家に帰り、写真の束を広げて見るものの、一枚目からショックを受けた。
それは布団に横たわっている老婆の写真なのだが、一目見て分かる、遺体の写真なのだ。
身体は不自然に反り返り、両手は宙を掴み、目も口も開きっぱなしの状態で布団に寝かされ、その枕元には線香が焚かれていた。
二枚目はその老婆を椅子に座らせ、遺族なのだろう人達がその周囲を取り囲み、一緒に写っているのである。その全員の服装から想像するに、年代的にかなり古いものだと察せられる。
既にこの遺族達は異常だと思った。その後は葬儀の写真となり、棺に寝かされた写真から始まり、焼香やら出棺、そして火葬場へと運ばれる様子に、火葬後の灰と骨の写真までもが納められている。
そして最後は骨壺だ。桐の箱に入れられ、布で包まれ、そしてそれがどこかの棚の上に置かれている。写真の全てはそれで終わっていた。
ある時、家に友人二人が遊びに来た時だ。話のネタに例のその写真を見せれば、その内の一人が、「ここ知ってる」と、最後の骨壺の写真一枚を指してそう言うのだ。
それはO市にある古い廃屋で、奥の座敷へと繋がる廊下の棚の上に、骨壺が置かれているので有名なのだそうな。
すぐに僕らはそこに向かってみた。そして確かに骨壺はあった。写真と見比べてみても、まちがいなくそこで撮られたものだと確信出来る程、その構図は似通っていた。
他の写真を見る。するとそこに写る家の中の風景も、ここで撮ったものだろうと思える場所があちこちに見付かった。
「やはりここの家の人が持っていたカメラだな」で、結論付けられた。もちろんその意見には僕も頷いた。
だが、疑問は残った。そのカメラを購入したのは近隣ではなく、七百キロも距離が離れたS県なのである。
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