#589 『娘をよろしく頼みます』
ある日の事である。近所に住む叔母が、血相を変えて家にやって来た。
どうしたのと話す暇も無い。叔母は慌てて仏間へと向かえば、「あぁ、やっぱり」と深い溜め息と共にそう嘆くのだ。
「何があったの?」私はその叔母の横に座ってそう聞けば、「さっきあんたのお母さんと会ったよ」と、叔母はとんでもない事を言い出す。
叔母は私の母の実の妹であり、言うなれば私よりもよほど母とは付き合いが長い。そんな叔母が迷いもせずに、五年も前に亡くなった私の母と会ったと言うのである。
そして母は叔母に向かって、「娘をよろしくね」と言って去って行ってしまったらしい。そこで叔母は、姉が亡くなっている事実を再確認する為に家へとやって来たと言う次第である。
さて、それだけならば叔母の勘違いか幻覚だったで済むだろう話だ。しかし時同じくして、近所中で私の母と会ったと言う人が続出したのだ。
しかもそのどれもが、「娘をよろしくお願いします」や、「よろしく頼みます」と言って消えて行くと言うもの。
あっと言う間に母の亡霊が現われたと近所中で騒然となったのだが、結局母が現われたのはその時限りで、それ以降は全く平穏無事のままであった。
どうでも良い事なのだが、どうしてその日に限って母が現われたのかが分からない。別に母の命日でもなければ、私の誕生日でもない。
全く何から何まで意味が分からない出来事であった。
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