#451 『風の止まる場所』
秋風の吹く午後の日の事だった。
一ヶ月振りにようやく彼氏と逢う事が叶い、公園のベンチに腰掛けとりとめもなくお互いの近況を話し合っていた時の事。ふと向こう側に、妙な光景が見えたのだ。
地に落ちて敷き詰まった色とりどりの枯れ葉が、風で宙に舞い飛ぶ。くるりくるりと渦を巻き、やがてまた地面に落ちる。だがその中で、唯一他の枯れ葉とは違う動きをする場所があった。
枯れ葉がふわりと舞う所までは同じ。だがその枯れ葉はその場所でだけ空中でぴたりと止まり、風が弱くなると共にその場でぽとりと落ちるのである。
最初は、面白い現象だなと言った感じで見ているだけ。意識は常に彼氏との会話の中にあり、さほどその事については注意を払っていなかった。だが、それがようやく「おかしい」と気付く頃には、彼氏もまたその現象を凝視する程に、私達の座るベンチの傍まで迫って来ていたのだ。
「なにこれ?」と、彼氏はそちらを指差す。目前、二メートル程前までやって来たその現象は、尚も変わらずその場所だけ風が止まったかのように枯れ葉が静止するのである。
「気味が悪い」と、ベンチを立つ。その後私達は約束通りに映画を観て、晩ご飯を終え、駅前で別れて家路に着いた。
浴室でシャワーを浴び、一通りを終えて出ようとした時だ。ふいに、思い出したのだ。昼間の例の現象を。
もしかしたらあれは、人の目には見えない“誰か”が、そこ立っていたのではないかと。
そこだけ風が止まっていたのではなく、見えない誰かに枯れ葉がぶつかり、そこで制止していたのではないのだろうかと。
そうそれはまるで、今私の目の前で、水飛沫を全身に浴びて水滴を滴らせている“人の輪郭”をした何かが立っているように――
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