#148 『呼ばれる人・山手線の話』

 高校時代からの付き合いである友人のK子には、特別な能力がある。

 それは、“呼ばれる”と言う能力。本人はあまり詳しくは語らないのだが、どうやら人ならぬ、神か仏のような存在のものの声を聞き取れたりする力が備わっているらしい。

 彼女はあまり都心の方には行きたがらない。具体的にどことまでは言えないのだが、都内の某所は特に強い“声”があるらしく、そこを地底奥深くまで掘り返せば、世界がひっくり返る程の強い“何か”が出て来るのだと、こっそり私に教えてくれた事がある。

 又、K子は山手線を“鬼門”とし、余程の事がない限りそれに乗ろうとはしない。理由を聞けば、山手線はそれ自体が大きな、“金庫のダイヤル”なのだと言う。

 例えば大塚駅から乗り込み内回りで七駅。次にその駅から外回りで十三駅と、あらかじめ決められた駅を交互に乗り継ぐ事により、とある“門”を開く事が出来るのだと私に告げた。

「門って、何よ?」と聞く私に、「知らない方がいいよ」と、K子は笑う。要するにそんな能力の子なのだ。

 彼女は神仏の声が聞こえるらしいのに、何故かあまり神社仏閣には行きたがらない。理由を聞けばそれなりに納得出来るのだが、今の日本の神仏は、かなりの確率で御本尊や御神体が盗まれている事が多いらしく、それを知るのが嫌なのだそうな。

 とある夜の事、K子と一緒にディナーへと行った帰り、突然K子の表情がこわばり、「ちょっとうるさくするけど、ごめんね」と言って、いきなり走り出した。

 一体どこへと行こうとしているのか、必死で彼女の後を追い掛けると、とある路地の横で、「お巡りさん、こっち! こっち!」と、大騒ぎを始めた。

「早く早く! 向こうからも回り込んで!」と、K子は叫ぶ。一体何事かと思えば、暗がりの中で何やら聞いた事の無い言語でまくしたて、逃げて行く人影を見た。

 後でK子が教えてくれたのだが、とある外国人による御神体荒しだったようだ。見れば確かにそこは、無人の神社の裏手であった。

「日本も少しは御神体の管理の方法をあらためるべきだと思うんだけど」とは、K子の談である。

 歴史を奪い去った所で、歴史が創られる訳ではない。K子が神社仏閣を避ける理由は、大いなる悲しみなのである。

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