#668 『ナイト・ミュージアム』
昔、夜な夜な美術館の展示品が動き回ると言うアメリカ映画が大ヒットした時があったが、内容は違えど日本でも似たような話がある。
これはG県在住のHさんが体験したお話し。
――若い頃からとても怠惰な性格をしていて、高校は勉強に着いて行けなくて中退。それから三十を過ぎるまで、アルバイトを勤めては辞め、勤めては辞めを繰り返していた。
ある時、知人の伝手で夜間のアルバイトを紹介された。内容は郷土史美術館の夜間警備員。夕方の五時から翌朝の七時までと言う長時間のアルバイトだが、勤務時間内での仮眠が許可されている上、仕事も特に無くただ詰め所にいるだけと聞き、俺はすぐに飛び付いた。
すぐに面接となった。当時はスーツなど持ってもおらず、普段着のジャージの上下で出掛けた。すると何故かそこの館長と名乗る中年男性は、やけに俺の事を気に行ってくれたらしく、「君ならやれそうだね」と笑顔で言うのだ。
いくつか質問をされたが、最後に、「君の性格は?」と聞かれ、俺は素直に、「雑で大雑把。そして面倒臭がり」と答えると、それでもう採用の返事をもらった。
翌日、詰め所へと向かうと、てっぺんの頭髪が無い小太りの中年男性が、「これを着ろ」と制服を渡してくれた。そして俺がそれに着替えていると、「お前、神経は図太い方か?」と聞かれ、「それは誰からでも言われますね」と答え、「むしろ無神経って言われます」と続けると、「大丈夫そうだな」と、その男性は笑う。
一体どう言う意味だろうと気にはなったが、まだ無関心の方が強く、すぐにどうでも良くなった。
さて、その日の閉館時間となり俺らの勤務が始まった。仕事は単に、職員が出払った後に館の中を巡回し、各出入り口の扉がちゃんと施錠されているか。そして居残る人がいないかをチェックする事のみ。後は全て監視カメラによる自動監視に任せるだけ。要は、翌朝まで寝ていて良いと言う事だ。
俺に仕事を教えてくれる中年男性の先輩は、安達さんと言った。もうかれこれ十二年もこの仕事をしていると言う。
「後継者がいないんだよ」と笑うのだが、これだけの好待遇でどうして後継者に悩むのかが分からない。
「陽が沈めば分かる」と、安達さんは言う。同時に館内から断末魔の悲鳴が轟いた。
何事だと俺は立ち上がるが、安達さんは笑顔のまま、「警報鳴ってないから行かなくていい」と言う。すると今度は何かを激しく言い争う声。ひそひそ話やうめき声。詰め所の前の廊下を走る物音までする。
「なんスか、これ!?」と俺が聞くと、「気にするな」と、安達さんはテレビを点け、音量を上げる。「慣れろ、とりあえず寝ておけ」言われるが到底無理な気がする。
――翌朝、日の出と共に怪音の全てがおさまった。安達さんは、「無理か?」と聞き、俺は黙って頷いた。
館を後にする際、展示品をぐるりと見て回った。
ほとんどが当時のものだと言う、甲冑や刀剣、着物や掛け軸などが展示されてある。
誰もが知る、有名な合戦の舞台である土地柄のせいだろう。今も尚その遺恨は続いているらしい。
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