#551 『ストレッチャーで見た夢』
私は車に撥ねられたらしい。とても曖昧な記憶のまま、ストレッチャーに寝かされ運ばれて行った辺りまではかろうじて覚えている。
目が覚めると、既に三日が経過していた。医師からいくつかの質問をされた後、警察を名乗るスーツ姿の男性が三人、病室へと入って来た。
「あなたを撥ねた車か運転手の特徴を聞きたい」と言われ、そこでようやく私は轢き逃げに遭ったのだと気付く。
「全く覚えていません」と、私は正直に話す。実際私は背後から撥ねられたようで、車自体はまるで視界に入っていなかったのだ。
「ただ――何か」と、私は今ここで言うべきではない事を口走り始める。
私は寝ている間にずっと夢を見ていた。しかもそれはいつも同じ夢で、何故か私は大量の花に囲まれているのである。
但しそれは、生死の境にいる人が見ると言うお花畑の類ではない。とても現実的な“花屋”の店内なのである。
沢山の鉢植えが並び、奥には巨大な冷蔵庫が壁に立て掛かっている。
その花の群れの間からガラス窓越しに外が見える。それはどこかの交差点の角に建つ店のようで、歩行者が多く店の外を歩いている。
右の向かいにはコンビニエンスストア。斜向かいにはチェーン展開されている蕎麦屋がある。左向かいには自転車屋さんと携帯ショップが見える。何故か夢の中だと言うのに、自転車屋さんの看板には“サイクルショップ・××”と言う店名すらあった。
私はその事を刑事さん達に伝えた。後で考えれば全く意味の無い言動であったのだが、何故か刑事さん達はその事をしっかりとメモに残し、どこかと連絡を取り合っていた。
やがて、「近くにあるぞ」と言う言葉を残し、出て行ってしまった。それから数日後には、轢き逃げ犯が逮捕されたと言う連絡が来た。
私は約半年ものリハビリを経て退院をした。
ようやくかつての生活へと戻れるようになり、少しした後、私は自身で調べ上げた某生花店へと足を運んだ。
果たしてその夢で見た店は――あった。確かに私が見た夢の内容そのものの場所へと行き着いた。
但し一つだけ夢と違う点は、かつての花屋は既にそこには無く、最近建ったらしい小綺麗なパン屋となってしまっていると言う事だ。
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