#126 『地下校舎』
小学校の六年生の頃だったと思う。通っていた学校には、一階から更に下へと続く地下の階段があった。
暗い踊り場を曲がって降りると、そこから先は更に暗く、くだりきった場所には鉄製の両開きのドアがあった。用務員のオジさんいわく、給食を運び入れるための場所なのだと言うが、開いている所を見た事が無かった僕らにとっては、絶好のミステリースポットだった。
ある日の放課後。時々、定期的に行われる例の地下階段を使った肝試しをする事になった。だが、全員の名札を集めて地下のドアにぶら下げに行く係の友人が、血相を変えて戻って来た。何でもドアは施錠されておらず、開いていると言うのだ。
僕らは全員でそれを見に行った。結果、確かにドアは開いていた。だが用務員のオジさんが言っていたのとは少々様子が違う。ドア向こうはすぐに外だと言う明るさではない。
覗くと奥は尚も暗い。意を決して踏み込むと、次第にその暗闇に目が慣れて来たせいか、ぼんやりと内部の輪郭が分かって来る。
「これ、校舎だ」と誰かが言った。確かにそうだ。見上げれば各横開きのドアの上に教室名らしき表札が見える。教室内部は厚手のカーテンが閉まっているせいでかなり薄暗く、椅子と机が並んでいる様子ぐらいしか覗えない。
僕らが普段使っている教室とは違い、かなり古めかしい校舎だった。但し、廃墟感はまるで無く、誰もおらずともしっかりと掃除が行き届いているような清潔感はあった。水道の蛇口をひねると水は出るし、空気も淀んだ感じは無い。
廊下は真っ直ぐに続いていた。いくつかの教室の前を通り過ぎ、やがて校舎の出入り口らしき場所に出る。外がやけに眩しく感じた。
出た場所は学校の裏側にある、裏手門だった。見れば給食を届けるトラックの搬入口もある。毎日こんな長い廊下を通って給食運んでるのかと、僕達はびっくりした次第だった。
帰りはその校舎内部を通る気にはならず、外から回って戻った。
後日、全員で裏手門へと回って例の校舎の玄関口を確認しに行ったが、何故かそれはどこにも見当たらず、トラック搬入口の向こうは鉄の門扉だった。偶然そこを通り掛かった用務員のオジさんに昨日の事を話すと、笑ってその扉を開けてくれた。
そこに現れたのは、僕達がいつも肝試しに使っている地下の終着点、階段の最下層だった。
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