#125 『船幽霊』
ひしゃくをくれと出て来る定番のものばかりが船幽霊ではない。海にいると、結構あちこちで“そいつ”と出くわす事は多いと、いつぞや出逢った漁師がそんな事を言っていた。
僕が二十代の頃だ。真鯛を釣り上げようと、夜の海釣りへと出掛けた。知らないおっさん達と一緒に船に乗り合わせ、深夜から釣りをスタートさせた。
何人かが掛かったが、僕はまだだった。せめて一匹はと集中している時、ざわりと船首辺りからただならぬ声が聞こえて来た。
見れば月明かりの下、ぼんやりと穏やかな海の上に立つ人影。船の進行方向、数十メートルの辺りに立っている。すると誰もがそそくさとロッドを上げて行く。僕は訳が分からなかったのでそれには合わせず、黙って釣りを続行していた。
ふいにアタリが来た。しかも相当な重さだ。これこそ真鯛かと思ったのだが、それに気付いた他のおっさん達が、「切れ、切れ」と言い出し、その中の一人が問答無用で僕のテグスを分断してしまった。
「すまんな、ボウズ」と、そのおっさんは僕の頭に軽く手を置く。
後で聞いた話だが、海の上に立つ人影は、その辺りの海ではかなり有名な船幽霊なのだそうだ。なんでもあのまま釣り糸を垂らしていたら、船ごと沈められる事もあるのだと言う。
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