#200 『伝搬』

 ※(注)読むと感染するリスクがあります

 今回のお話しは、タイトルの通りに“感染”する可能性のあるお話しです。厳密に言うとこれは怪談ではなく、呪詛的要素の高い一種の呪いのようなものです。怪異に遭遇はしたくない、見たくないと思う方は、これ以上は読み進めない事をお願いします。又、このお話しを通じて怪異に遭遇した場合、筆者、管理者は、責任を負いかねます。但し、怪異自体の内容はさほど高いものでは無いし、それによって今後の生活に支障をきたすものではない事だけはお約束致します。


 筆者も含む、知人数人の体験談である。

 ある日、Yと言う知人にこんな話を聞いた。真夜中、突然に始まる、家の廊下を走る足音を聞いたと。足音は玄関の辺りから始まり、自分が寝ている寝室の前までドタバタと騒々しくやって来て、突然その部屋の襖戸をがらりと開けたのだと言う。

 目が覚めたYはその方向を見るが、誰もいない。果たして今のは夢の中の話だったのかとも思ったのだが、聞いた足音はやけにリアルで、しかも――

「閉めて寝た筈の襖が、夢の通りに開いていた」と言うのだ。

 夢だと言われたらそうなのかも知れないが、なんとなく夢じゃなかったような気がするとYは言う。ちなみに彼は一人暮らしだ。

 それを聞いた私はその日の内に、Yの話を知り合いの女性であるTさんに話した。彼女は「ふぅん」とだけ言って聞いていたのだが、その翌日、Tさんは「同じ事が起きた」と私に電話をして来たのだ。

 二階の自室で寝ていたら、突然に階段を駆け上がる激しい足音。そしてバーンとドアが開かれて、Tさんは慌てて起きたのだそうな。

「でもそれ、夢だったのかも知れない」と、Tさんは言う。なにしろ、ドアを開けられた瞬間にそちらを向いたのだが、そこに“誰か”を見たような気がして初めて、そこでようやく現実に目が覚めたと言うのだ。要するに、ドアの方を向いた時点ではまだ夢の中。向いたと同時に目が覚めたと言う順番だ。

 でも、実際にドアは開いてたのよねぇと、Tさんは不思議がる。

 聞いた私は、面白いと思ってすぐにその事をFacebookにアップした。だが思う所あってすぐに消した。載せた次の瞬間には削除していたので、見た人がいたとしても僅か数人だっただろうと思う。

 そして事件は起きた。翌日、自らのアカウントを開いてボーッと眺めていたら、「こんな夢を見た」から始まる、内容がほぼ同じな投稿が相次いでいたのだ。

 話の中身はY氏とTが語った内容とほぼ同等だった。夜寝ていたら激しい足音、そして開かれる部屋のドア。見ると誰もいないのだが、何故か部屋のドアは夢の中と同じように開いていると言うもの。

 その投稿を見たのは朝だったので、そこまで詳しく見ている暇はなかったのだが、計七、八人は同じ投稿をしていたと記憶している。

 同じ夜に、同じ現象があちこちで多発していた。しかもどの人も関連性の無い人ばかり。私はとても興味を持って、色んなワードでGoogle検索をしてみたのだが、どうやらその現象が起きたのは私の知り合いばかりだったようで、一般の話題の中では同じニュースを拾う事が出来なかった。

 だが、確実にそれが“伝搬”する出来事だと言う話である事だけは分かった。

 筆者の娘は言う。その話をクラスター化させたのは、あなただろうと。

 あれ以来、この話題は封印していたのだが、本日の二百話目をもって解禁しようと思う。

 くれぐれも部屋で一人で寝ている方はご注意願いたい。もしも同じ現象に遭遇したくないと思ったならば、今夜は是非に部屋のドアは開けっぱなしで寝る事をお勧めしたい。開いたドアが更に開く事はおそらく無いであろうから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る