#597 『指切り』

 深夜の事である。僕は部屋でパソコンに向かいつつ、動画の編集をしていた。

 普段僕は、作業中には部屋の電気を消している。真っ暗ではないのだが、小さな明かり一つだけでの作業なのだ。

 そして僕の使うパソコンはもっぱらノートだ。それならば外に持ち出し作業が出来るからである。

 さて、そろそろデータの保存をして寝ようかと言う頃。突然そのノートパソコンの上で、指切りのマジックが始まった。

 それはとても古典的な手品で、片方の親指を折り、もう片方の親指でいかにもその指が切れたかのように見せる、子供だましの手品である。

 それが、僕のそのパソコンの真上で始まったのだ。

 すいと手がモニターの上に現われて、親指を隠そうと折れ曲がった他の指が、明かりの点いたモニターの上部を邪魔しながら動き始める。

 手品は最後まで見る事が出来なかった。僕自身が悲鳴を上げて部屋から転がり出たからである。

 既に寝ている兄を連れて部屋へと戻るが、もちろんの事その手はもう無い。

 モニターの後ろを覗くが、腕どころか手のひらですら這い出る程の隙間も無い。

 以降、深夜の作業は出来なくなり、暗い部屋で何かをすると言う事もしなくなった。

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