#704 『豪雨の中を歩く集団』

 初夏の事である。母と一緒に車で買い物に出掛け、スーパーマーケットの広大な駐車場へと乗り入れた際、先程まで怪しかった天気が突然の土砂降りとなった。

 それは凄い降りで、ワイパーを最大にしても視界が悪く、かろうじて駐車スペースの白線の中に車を停めるだけで精一杯であった。

「止むまでここにいよう」と、母は言う。私もそれに頷いた。

 しばらくすると、その豪雨の中をとぼとぼと歩いている人影が、とても不鮮明なフロントガラスに映る。

「ねぇ、お母さん。誰かいる」

 それは母にも分かったらしく、懸命に目を細めてそれを見ている。――が、もちろんどんな人なのかはまるで分からない。ただその手に棒のようなものが握られ、それを垂直に立たせながら歩いているのだ。

 すると少し遅れてその後を大勢の人が追い、車の前を横切って行くではないか。

「何この人達……」

 それは総勢百人近くはいたのではないか。やがてその群れは過ぎ去り、消えて行った。

 突然また雨が小降りとなり、そしてものの数分もしない内に上がってしまう。

「急に止んだね」と、私と母は車外へと出るが、おそらくそんなに遠くまで行ってないだろう筈のさっきの団体は、どこを探しても見当たらない。

「妙なの見たね」と買い物をして家へと帰ると、学校帰りの妹と家の前で鉢合わせる。

「ねぇねぇ、さっき私、変なの見ちゃった」と妹。何でも友人と一緒に某ハンバーガー屋にてお茶をしていた時、突然の集中豪雨がやって来た。こりゃあしばらく帰れないねと話し合っていると、その店の外を大勢の人がぞろぞろと歩いて行ったと言うのだ。

「で、通り過ぎちゃったらまた急に雨が止んだの」

 その店は方角的に、私と母が見た集団の消えて行った方向である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る