#703 『森からチャイムが聞こえる』
大学の後輩であるRとHの二人を誘い、某森林にてオートキャンプをする事にした。
僕の所有するワンボックスカーに荷物を載せ、途中のスーパーマーケットで食材と酒を大量に買い込んで出発した。
着いた先はオートキャンプ場としてそこそこ有名な場所の筈なのに、何故か利用客が一人もいない。
「貸し切りじゃん」と喜び車の後ろを開け、そこから繋げるようにしてタープを張り出す。
準備はあっと言う間に終わった。後は火を焚きひたすら飲むだけである。
夕刻、陽が傾き始めて来たなと思った頃には、既に三人共べろべろに酔っていた。
今日は早く寝るかと話し合っていると、どこか近くからだろう、キーンコーンカーンコーンと、学校で流れるようなチャイムが聞こえて来たのだ。
「あれ、この辺りに学校とかあったっけ?」
聞くと後輩のHが、「いやぁ、田舎の学校ってこう言う場所にあるもんじゃないですか」と無責任な事を言う。
まぁそんなもんかな。その時は僕もそう思い、再び新しいビールの缶を開ける。
それからチャイムは一時間置きに鳴った。それを聞く度に、「早いな、もう一時間経った?」と三人揃って驚きつつ、結局飲む事をやめない。
そしてチャイムは何故か、断続的に夜の九時まで鳴り続けた。
「なぁ、何でこんな時間まで鳴らすの?」と僕が聞けば、「こんな時間までやってる部活もあるんでしょう」と、素っ気ない声でRは言う。
まぁそんなもんかな。その時も僕はそう納得し、大概もう寝ようか考えた。すると――
木々の間をいくつかの光が通り抜けて行くのが見えた。それを見てHが、「あれきっと、学生達の自転車のライトですよ」と言う。
遅くまで大変だなと思いつつ、したたかに酔った僕は早々に車に乗り込み、準備していた寝袋に包まった。
気が付けば既に朝だった。そして僕よりも早く起きたのだろうRとHが、スマホの画面を見ながら何やら話し合っている。
「先輩、この辺りに学校なんて無いですよ」
見れば確かにそのモニターに映し出されるマップには、四方が広大な森しかなく何の建造物も無い事が確認出来る。しかも昨夜見た木々の間の光にいたっては、そこに道すら存在していないのだ。
「一体何を見聞きしたんだ?」
ちなみに目的地であるオートキャンプ場の場所すらも間違っていて、僕らはただの拓けた森林の中で寝泊まりをしていたのだ。
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