#756 『私にしか見えない』

 ある夜の事だった。宿題を片付けようと机に向かうと、何故か窓の外がぼうっと明るい。

 何だろうと覗いてみると、裏手の山の上にある神社が、全面ライトアップされて光の中に浮かび上がっているではないか。

 慌てて祖母の元へと飛んで行き、今見た事を話せば、「村のどこかが燃えよるぞ」と言う。

 意味が分からず、神社の方はほっといていいのかと聞けば、「行ってはならんよ」と祖母は言う。その灯りは人が照らした光ではないから、見に行ってはいけないのだと言うのだ。

 だが確かにそうだ。裏手の神社はとても小さな神社で、しかもそれは私の家が管理しているものであり、その神社に辿り着こうと思ったならばどうしても私の家の前の坂を上がって行かなければ辿り着かない。更に、恥ずかしながら私の家は築年数が相当に古い木造家で、もしも誰かが家の前を通ったならば、すぐにその足音なり気配なりが知れるのである。

 そんな条件下で、もしも神社の全てをライトアップ出来る程の機材を持ち込み、家の前を通ったと言うならば、確実に家人の誰かが気付く筈なのだ。

 祖母はすぐに電話に飛び付き、どこかへと連絡をしている。理由は話せないが、おそらく大火事が起こる。すぐにそれに備えよと。

 やがて町内に緊急の放送が流れた。消防団員、出動に備えよと言う放送だ。

 だがその放送が流れてものの数分もしない内、今度は近隣の火災の通報が流れた。祖母の指摘は当たったのだ。

 火事はボヤで済んだ。私は、その出火原因について祖母が問い詰められるかと思って心配したが、それは杞憂だった。逆に消防署の方から何人かが家にやって来て、お礼を言う程であった。

 その際に、何故か私が紹介された。祖母曰く、「私がいなくなっても、この子が気付くから」と話したのだ。

 後日あらためて知ったのだが、あの晩の神社の光は、火事の予兆を知らせるものだったらしい。

「きっともうお前にしか見えないもんだから」と祖母は笑う。

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