#342 『ガラスの向こうで』
僕らがまだ高校生だった頃。友人達数人と、町外れにある廃工場へと探索へと出掛けた。
閉鎖して十数年と言われるその工場は想像以上に不気味で、とりあえず僕達は周囲をぐるりと回って侵入出来そうな箇所を探す。
突然、友人の一人が「誰かいる!」と小さく叫んだ。見れば確かに、向こうの建物の裏口らしきドアの向こうに人影があった。ドアの窓は磨りガラスで鮮明には見えないのだが、モザイク掛かった感じでその内側に“誰か”がいるであろう“顔の輪郭”が見て取れたのだ。
その誰かはドアの向こうで物陰に隠れるようにして、首だけを斜めに傾げたような格好でそこにいる。こちらを向いているのは、その目鼻の位置からしても分かるぐらいだ。
「動かないぞ」とか、「マネキンじゃねぇの?」と言う声が上がった。友人の一人が意を決して、近付いてドアを蹴飛ばした。だがやはり応えは無い。
「どうもこれ、人じゃないみたいだな」とその友人はドアノブを掴むが、施錠されているらしくドアは開く様子が無い。
そしてとうとう、その人影の正体を暴こうと言う話になった。そこのドアは開かないので、他の箇所から入り込んでこの建物の内側を目指すと言う計画だ。一人だけをそのドアの前に待たせ、他は全員、内側へと向かう。そして僕もその内側の探索へと回った。
工場内は建て増しで大きくしたらしく、構造がやけに入り組んでいて迷路のようだった。
外で待機している友人とは、PHSで連絡を取っていた。外の友人は一人で心細かったらしく、まだかまだかとしきりにせっついて来る。
やがてそれらしき場所へと辿り着いた。そこはどうやら倉庫か何かだったであろう部屋なのだが、部屋の入り口近くまで不要となった機械や設備品がぎゅうぎゅうに押し込まれていて、到底その裏口まで辿り着けそうにない。その時だった――
「ぎゃあ!」と、PHSから悲鳴。同時に我々にも聞こえるようなその友人の悲鳴が、部屋の奥の方から聞こえて来た。
僕達は再び工場の中を回り込み、外の友人と合流する。するとその友人は怯えた様子で、「あれ、マネキンじゃねぇよ」と言うのだ。良く良く聞けばその友人、ちょっと目を離した隙に、「ドン!」とドアを叩かれたと言うのだ。慌てて振り返ればその磨りガラスに貼り付く小さな掌が二つ。そしてその後ろには明らかに笑っている表情の子供の顔が見えたらしい。
「じゃあそれ、やっぱ人間だよ」と、友人の一人が言う。なにしろそのドア、工場の内側からは辿り着けない場所にあるのだ。ならばそこに入り込むには外側からしかない。つまり元々ドアは開いていて、そこから誰かが侵入し、内側から施錠したと言う事だろう。
「脅かしやがって」と、ドアの前で待機していた友人は怒りながらまたドアの場所へと戻る。すると指摘通り、例のドアは今し方誰かが出て行きましたとばかりに半開きになっていたのだ。
「もう逃げただろうな」言いながらそのドアを覗けば、誰もが言葉を失った。ドアの先は部屋の入り口同様、ぎゅうぎゅうに物が押し込められており、どんなに小さな子供ですらそこにいられる程の空間は存在していなかった。
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