#638 『最期の望み』

 前夜に登場した霊能者さんの体験談、その二夜目。

 ――ある時、新築の家なのに霊現象が起こると言う依頼者に相談され、霊能者さんはそのご自宅へと出向いた。

 現象は二階にある一部屋のみで起こると言う。そこの部屋に何か物を置くと、全て散らばって床にこぼれ、そして昼夜問わずに“何かを叩く音”が聞こえるらしい。

 そして霊能者さんはその部屋へと通され、全てを悟った。天井からぶら下がる男性が、苦しくてもがき、バタつかせたその両足が家具を蹴り散らかし、壁を叩いて音を鳴らしているのである。

「新築の家なのに事故物件なのですか?」と筆者が聞くと、「そうじゃない」と言う。

 ぶら下がる男はパラシュートで降下し、ここにあった木に宙吊りとなって、その紐の一端が首に絡まっているおかげで苦しんでいるらしい。しかもそれはこの家が建つずっと以前の事である為、厳密には事故物件とはならないのだ。

「祓えますか?」と依頼者に聞かれ、「祓えません」と、霊能者さんは答えた。

 何故かと言うとそこにいるのは霊ではなく、ぶら下がった男性の“残留思念”のみなのだ。

「多分その男性はまだ生きてますね」と霊能者さんは言い、「祓う、祓わないではなく、本人の意志とは関係の無い“記憶”ばかりがそこにあるだけなので」と語った。

 だが、そこの家の人はそんな説明では納得行かないだろうと言う事で、霊能者さんはその部屋から全員出て行ってもらい、一人でとある作業に取り掛かったと言う。

 結果、その部屋では何も起こらなくなり、怪音も消えた。

「どうやったのですか?」と筆者が聞けば、「望みを叶えただけですよ」と、霊能者さんは笑う。

 その枝にぶら下がった男性の最期の望みは、「助かりたい」ではなく、苦しみのあまりの「早く死にたい」だったらしい。

 だが不本意にも助かってしまった。だからこそそこに思念が残ってしまった訳だ。

 霊能者さんがどんな“作業”をして事を納めたのかは知らない。だがちゃんと望みは叶い、その男性の思念は消えたのである。

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