#249 『震度計』
地元の町の裏手側に、小高い丘がある。
木々が密集し、ろくに道も作られていないので、地元の人でその丘を歩く人はほぼいない。
だが子供と言うものは逆にそう言う場所を好むもので、僕もまた他の子達と同様に、丘で遊ぶ事が多々あった。
そんな丘の中腹辺りに、奇妙な建造物が建っている。
大きさ的には一メートル四方ぐらいで、高さは大人の背丈ほど。壁は全てコンクリートブロックで、セメントで適当に固められている。屋根は簡素にトタンの波板が斜に掛かっている程度で、長い年月風雨にさらされ、かなり腐食している。
奇妙なのは、その建物には一切の出入り口らしきものが無い事だ。もちろん一メートル四方程度の大きさなのだから入った所で座るぐらいの場所も無いだろうが、目的あって建てられた以上、内と外とのつながりが何も無いのはおかしい。
前に親に聞いた所、「震度計だ」と教わった。何でも日本全国、色んな場所に建てられていて、その中の一つだそれなのだと言う。まぁ、僕もその説明で納得はしていたのだが――
「中、覗いてみようぜ」と、一緒に行った友人達がそんな事を言い出した。
覗くと言ってもどこからどう覗くのだと疑問に思っていると、その中の年上の二人が肩車をして、無理矢理に屋根をこじ開けようとしていたのだ。
だが、意外にも屋根は簡単に外れた。むしろただそこに載せている程度のものだったらしい。皆で手伝い、屋根を横へと滑らせて行けば、「うわぁ!」と、上に乗った方の友人が悲鳴を上げて落下した。
下側にいたもう一人の友人が、「何やってんだよ」と憤慨したが、「お前も覗いてみろ」と肩車をされ、同じように悲鳴を上げて落下したのだ。
「これ、震度計なんかじゃない!」
その日の内に、町の大人達が数人、そこに集まった。そして同じように中を覗き込み、悲鳴をあげては飛びすさる。
「埋めよう」と、誰かが言った。そしてそれはあっと言う間に可決されたらしく、その翌日にはセメント袋を担いで丘を登る人達の姿があった。
結局その建物は屋根部分までセメントで埋め尽くされ、今ではただの大きなセメントの塊となっている。
後に聞いた話だが、中には女性を模した石膏の像が立っていたらしい。
両手を合わせ、空を仰ぎ、笑顔を見せる女性の像。なのになんでそんなに皆が驚き、埋める程まで嫌われたのかと問うと、「笑顔が狂人のそれだった」と言う。
屋根を外し、中を覗くと、目の前にそんな笑顔の女性の像があると言うのだ。
それは確かに怖いのだが、出来れば僕もその像を見てみたかったと心からそう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます