#248 『水廻り』
借家の水廻りが、なかなかに酷いのである。
蛇口を固く閉めても水がしたたり落ちるのは既に当たり前になっており、開けてもごぼごぼと音しか出なかったり、赤さびが混じっていたりもするし、水はけも悪ければトイレの逆流などもしょっちゅうなのだ。
時折、誰もいないのに台所の水が勝手に流れ出したり、真夜中に浴室から音がするので見に行けば、シャワーが出ていたりした時もあった。
意味不明な、床の水浸し事件もあった。漏水を疑い見てもらったが、どこにも異常は無かった。そう言えば、台所の床を踏みならす足音が続いたり、トイレのドアが内側から施錠された事もある。
だが特に困るのが、水の匂いだ。ウチの水道から出る水は酷く臭く、泥の匂いや生臭い匂いがするので、とてもそのままで飲料水にする事が出来ない。なので飲料用や料理の時などは、買って来た水か一度湧かした水しか使わない。
風呂の時はもっと不便で、浴槽にお湯を張るとなかなかに臭い温泉のようになる。もちろん風呂に入らない訳にも行かないので仕方なく使うのだが、自分自身が余計に汚くなったかのような気分になり、とても不愉快なのだ。
何度も水道業者には掛け合った。だが点検、調査をしてもらうと、結果はいつも“異常無し”なのである。
「これってやっぱ、この家がおかしいのかな」と、とある友人に相談をした事がある。するとその友人、我が家へと来るなり、僕の顔を見て「おかしいのはお前の方だよ」と言うのだ。
すぐに友人に連れられ、近くの神社へと向かった。そして友人は、一人で鳥居をくぐってお参りをして来いと言うのだ。
僕は友人の指示に従った。途端、家中の水廻りが正常に戻ったのだ。
一体あれはどんな現象だったのだろうと、今でも思い返す事がある。
もう二度とあんな状況には戻りたくないなと思いつつ、のんびりと風呂に浸かっていると、どこからか小さな声で「ただいま」と声が聞こえて来た。
途端、湯が泥臭くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます