#9 『扇風機』
中古品屋で、骨董品レベルの扇風機を購入した。
昭和五十年代のもので、かろうじてモーターが生きている程度のポンコツだったが、五百円と言う破格だったので即決で買ってしまった。
レトロの扇風機は、その晩から大活躍だった。エアコンの無い狭いアパートメントにとっては必需品そのもので、とても重宝した。
だが一つだけ難点があった。古いせいか、駆動音がやけにうるさいのだ。いや、うるさいと言うよりも奇妙な音なのだ。それはまるで人が歌う音程外れの曲のようでもあり、悪夢にうなされる人の声なんかにも似ていた。
ある暑い日の事、いつのも増して扇風機の音がうるさかった。
突如、とても鮮明な音で、「ハヤシライス」と扇風機がしゃべった。私は思わず、「なんだって?」と聞き返す。同時にキュルキュルとうなりながら扇風機は停止した。
ツッコんではいけなかったらしい。扇風機はその生涯を終えていた。
後で知った事だが、昭和五十年代当時、ハヤシライスはとても最先端のモダンなものだったと言う。
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