#221 『部屋のどこかが』

 二年ほど付き合ったA子と、籍を入れる事になった。

 新居はA子の要望で、駅から遠い不便な場所を選んだ。

 木造平屋で、趣味の良いレトロチックな家屋。裏は雑木林で、庭先に少しだけ畑のある家だ。

 調度品もまた、全てA子の趣味で取り揃え、いかにもなアンティーク系の家が出来上がった。

 さて、そこに住むのは良いのだが、初日から些細な怪異があった。

 怪異と言ってもとても小さな事であり、むしろ勘違いか気のせい程度のものである。単に家の中のどこかが、“開いている”と言うだけの事。

 開いているのは家のドアだったり、箪笥の引き出しだったり、トースターの蓋だったりと様々で、どちらかと言えば“怪異”と言って驚くよりも、「またしても小人さんが出たね」と、お互いに楽しむ余裕さえあった。

 実際僕も、その件に関しては全く危機感は感じていなかった。だが、防犯のためにと玄関先に一つだけ取り付けた小型カメラが、偶然にもその現象を録画してしまったのだ。

 それは、ニット帽をかぶった若い男性だった。何故か施錠している筈の玄関のドアを軽々と開け、家の中へと入って来る様子が映っていた。

 そしてそれを観たA子は血相を変え、ありったけのカメラを家中に設置して欲しいと言い出した。

 全六カ所。その全てのカメラに、例の男は映し出されていた。

 箪笥を開け、ドアを開け、引き出しを開け、冷蔵庫すらも開けている様子を観て、A子は何か思う事があったのか、「自画像」と言って大事にしていた、彼女がモチーフの絵を無造作に引き千切ると、それを庭先で燃やした。

 それっきり怪異は完全におさまったのだが、結局、例の男が誰なのかは教えてもらえないまま、分からず終いなのである。

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