#220 『もう一度』

 両親が離婚した。僕がまだ中学生だった頃の話だ。

 僕には妹が一人いて、当時は小学生だったと思う。僕は母と一緒に、今まで暮らして来た家で生活する事となったのだが、妹は父と一緒に、父の故郷である熊本へと引っ越してしまった。

 思えばさほど仲の良い兄弟ではなかったような気がしたが、何故か妹からは年に数回、手紙が送られて来た。中身は「もう一度一緒に暮らしたいです」と言った内容の文章と、妹だけがうつった写真が一枚、入っていた。

 写真は何故かいつも同じポーズで、妹は手に鏡を持ち、その写真をうつしているであろう父の姿が鏡に小さく入り込んでいた。

 手紙は、僕が大人になってまでも続いていた。僕も返すには返したが、それほど筆まめでも無かったせいか、数年に一度ぐらいの頻度であった。

 ある時、来た手紙の中の写真に違和感を覚えた。僕は既に二十七と言う年齢だったのだが、妹の姿は何故か不思議と年齢を感じさせず、いまだ未成年のようなあどけなさがあるのだ。

 そう言えば違和感はまだあった。妹は相変わらず手に鏡を持ったポーズで写っているのだが、どうもそれを写している人の姿が、父のものとは思えないのだ。

 僕は思わずその手紙に返事を書いた。思ったままの写真への違和感と、それを写している人が誰なのかと言う疑問を書き連ねた手紙だ。

 同時期に、母が亡くなった。享年四十九歳と言う若さだった。僕は死亡届と同時に、家庭の様々な書類を整理しなければならず、謄本も取り寄せる事となった。そこで初めて知ったのだが、離婚した父は既に他界していた。死亡時期を見ると、僕らと別れて間もなくの事だった。そして驚く事に、妹もまた父と同じ日に亡くなっている事を知ってしまったのだ。

 調べてみると、父と妹は自宅にて他殺体で発見されたとあった。そう言えばと、僕はとある事を思い出す。父と離婚してすぐ、母は「仕事だから」と、中学生だった僕を一人置き去りにして、一ヶ月ほど留守にした事を。

 僕は母の葬儀を済ました後、熊本の家を訪ねた。思った通りそこは空き家で、既に朽ちて崩れ掛かっているほどに老朽化していた。

 家のポストには、僕が送った手紙が数通、押し込まれていた。

 母が亡くなって以来、妹からの手紙が届く事は無くなったのだが、今以てあの写真にうつる二人が誰なのかは分からず終いである。

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