#222 『魅入られる』
ある日突然、同級生のサキエと言う女の子に恋をした。
それはもう完全に一目惚れだった。今までも同じ教室で彼女を見ては来たのだが、その時のサキエを見た瞬間に、「落ちた」と僕は思ったのだ。
だが結局その恋心は、僕の片思いだけで終わってしまった。
サキエは元々、喘息を患っていたらしい。突然の発作で救急車を呼んだものの間に合わず、十七歳と言う年齢で亡くなってしまったからだ。
翌日、クラス全員で通夜へと向かった。柩に横たわる彼女の姿を見て、僕はその姿に魅入ってしまい、どうにもたまらず彼女の遺体を写真に収めてしまったのだ。
そんな行為を見て咎めた同級生もいたが、僕は全く気にもせず、まるで宝物を手に入れたかのような喜びで家へと帰った。
その晩はまるで眠れなかった。何度も何度もサキエの遺体の写真を眺めては、物思いに浸っていた。
明け方頃、ようやくうとうととして来た所でサキエの夢を見た。彼女は夢の中でどうしてももう一度、僕に逢いたいと言って来たのだ。
学校は無断で休んだ。今日を逃したらもう二度とサキエに逢えないと思った僕は、呼ばれもしない彼女の告別式に参加した。
焼香の番が近付いて来る。いよいよ彼女に逢えると、胸が高鳴り出す。そうして僕が彼女の柩の前へと立つと、どう言う訳か彼女の眼孔は見開かれていて、しかもその視線は確実に僕を睨み付けているのだ。
「あぁ、いけない」と、突然、経をあげていたお坊さんが僕の横へと飛んで来て、彼女の瞼を降ろし、僕の背をさすりながら力強く棺の前から遠ざけた。
そこからはあまり記憶が無い。サキエの家族が僕を罵倒し、親族がそれを止め、お坊さんが懸命に僕に向かって経を読む。そんな場面が断片で思い出されるだけだった。
気が付けば自宅のベッドの上。僕はぼんやりとサキエの遺体の写真を眺めると、「気持ち悪い」と、それを消した。
後で聞いた話だが、サキエの喘息の話は嘘であり、実際は服毒自殺だったらしい。
クラスの皆は、僕が“魅入られた”のだと噂している。何でもサキエの遺書にはしつこい程に僕の名前が挙がり、その想いが綴られていたと言うのだ。
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