#649 『お中元』
実家を離れて五年が経つ。それでも夏のお盆の時期ともなれば、当たり前のように帰省をしていた。
さて、その年の夏。例年通り車に乗り込み、片道三時間の距離を走った。
実家にはもう両親しか住んではおらず、二人は僕の帰省を心から喜んでくれた。
四日が過ぎ、家へと帰る頃。いつも通り母が山のような包みを持ち出して来る。親父に届いたお中元の山である。
「どうせ食わんから」と、どれも包み紙さえ開けていない。要するに何が入っているのかも分からないのだ。
車で来たんだからいいじゃないかと、後部座席に全て放られる。そうして僕は帰路に着いたのだが――
開いてる、と思った。途中で立ち寄ったパーキングエリアで用を足し車へと戻れば、何故か後部座席のドアが半開きになっていた。
おかしい。もしも半ドアでロックしたならば警告音が鳴る筈である。
だがしかし、その現象は家に帰り着くまで計三回も起きた。いずれも後部座席の半ドアである。
さて、いよいよ休みも終わり職場へと復帰する。その一日目の事。家へと帰ればドアのロックが外れている。
まさかと思い、警戒しながら部屋を覗く。だが人はいないし、荒らされた形跡も無い。
自分の閉め忘れかと思った瞬間、部屋のドアの一つが開いているにも気付く。
部屋を覗いてハッとした。その部屋は普段、物置のようにして使っているのだが、そこには母から渡された例のお中元が山積みになっていた。
「これか」とすぐに察した。そして僕はすぐにその包装紙を破り、片っ端から中をあらためた。だが――
煎餅に、珈琲に、クッキーに、ビール。怪しいものは何一つとして無いし、どれも有名デパートや知った名前の店の商品ばかりだ。
これじゃなかった。では一体何が? 思ったが、それ以上怪しいものは思い浮かばず。そしてその晩を境にその現象は無くなった。
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