#648 『三階突き当たりの姿見』
前夜の体験談を語ってくれた方の、もう一つのエピソード。
出来れば前夜の方から読んでいただきたい。
――手洗い場でそんな話を教えてくれた後、K子さんは、「ここよりももっと怖い場所がある」と言い出した。
「三階の廊下の突き当たりに、大きな鏡があるよね?」
確かにある。階段を上り、三年生の教室から始まって順に四年生、五年生と続き、その奥にある六年生の教室の更に奥にある廊下の突き当たりに、その姿見は存在した。
その大きさから遠くからでもその鏡は目に入り、誰もが自分の姿を写しながら教室へと入る。そんな姿見である。
「なんであそこにあるのか知ってる?」と、K子さんは聞く。当然私達は首を横に振る。
「丁度良い時間だから行こう」と、K子さんは言い出した。そして私達はそれに続く。
放課後の事である。居残っている生徒はほぼいない。K子さんはその姿見の前まで行き、「正面からは近付かないで」と注意を促し、私達をその横に立たせた。
「音がするでしょう?」聞かれて耳を澄ます。確かにカリカリ――と、姿見から音が聞こえる。
「普段だと大勢いるから聞こえないのよね」とK子さん。実際音は、ほぼいつも鳴っているのだと言う。
「後ろに――何かいる」と、友人の一人が言った。するとK子さんはその子を指差し、「半分当たり」と笑った。
なんでもこの真っ直ぐな廊下は、かつての霊道であったらしい。要するに死者が通る道の事だ。それを知っての事だろう、ここに姿見を置いてそれを妨げたのだと言う。
「霊道はもう少し上空に出来たから大丈夫なんだけど……」と、K子さんは言い淀む。
それでも元の霊道の痕跡を辿って、こうして時折、数体の霊がここを通ろうとして行き止まってしまうらしい。
「多分、鏡の裏に経文か何か書かれてあって、それで止まってるんだと思うよ」と、K子さん。
要するに、カリカリと何かを引っ掻く音は、鏡の表側から聞こえる音なのだ。
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