#650 『鬼っ子』
昔、祖母の住む実家にて奇妙なものを見せてもらった事があった。
それは小さな瓶に詰められた、小指の先ほどの蠢くもの。一見すれば虫か、小型の爬虫類のような生物であった。
祖母は言う。「鬼の子だ」と。
あまりにも家のあちこちでおかしな事が起こる為、罠を仕掛けてとっ捕まえたと祖母は笑う。だがその小瓶に入るものをいくら眺めても、鬼のようには見えない。むしろ木の枝を這う何かの幼虫のようにしか思えないのである。
それからと言うもの、僕は祖母の家に行く度にその鬼の子の様子を聞いた。
「まだ生きちょる」と祖母は言い、後でこっそりその小瓶を出して見せてくれるのだが、やはり相変わらず何かの幼虫のようである。
それから十数年が過ぎた。僕は中学へと入りサッカーに明け暮れる毎日で、そのまま高校、大学、そして社会人となるまで祖母の実家に立ち寄る事は無くなってしまったのだ。
ある時、祖母の訃報を聞いた。その瞬間、思い出したのである。例の鬼の子の入った小瓶の存在を。
すぐに実家へと飛び、親や親類が集まる中、僕はこっそりと人目を忍んで祖母の部屋の箪笥の中から小瓶を見付け、家へと持ち帰った。
果たして――小瓶の中の鬼は既に息絶えていた。どころか既に白骨化し、塵か埃か程度の亡骸が瓶の底に散らばっているだけであった。
「鬼が死ぬ筈無い」と、そんな確信を持っていた僕は、即座にその小瓶の中のものは鬼などと言うものの類ではないと結論付けた。そして瓶の蓋をこじ開けると、中の塵は窓から捨てて、瓶は回収用のゴミへと放り込んだ。
果たしてそれが関係あるのかどうかは知らない。ただ数日後、隣に住むとても口うるさい老人が孤独死しているのを発見され、その遺体は動物に食い荒らされたかのようになっていたらしい。
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