#187 『落ちるもの』
ガコン! と、激しい物音で目が覚める。時計を見れば深夜の二時過ぎ。僕は「またか」と思いながら洗面所の電気を点けて浴室の中を覗く。見ればいつも通り、浴室の床の上にシャワーのヘッド部分が転がっていた。
いつの頃からか、ほぼ毎日と言って良いほどに、深夜となるとシャワーのヘッドの落ちる音が浴室の方から響くのだ。ホルダーを見る限り、原因はそこにありそうになかった。ヘッドをそこに引っ掛けて強く引っ張るも、落ちて来る様子もなければ緩んでいそうな気配も無い。どうしてこれが落ちるのかがまるで分からないのだ。
いい加減寝不足気味となったので、もう落ちるのなら仕方が無いとばかりに、シャワーを使った後はヘッドを床に寝かせ、最初から落ちた状態にしておいた。もうここから下に落ちる事は無いだろうと思って眠りに就いたのだが、やはりいつも通りに浴室から「ガコン!」と激しい物音が響いた。見に行けばヘッドのカバーが割れ、プラスチック部分が床の上に散らばっていたぐらいだった。
一体ここで何が起こっているのだろうと言う疑問は湧いたが、知ってしまったらもうここには住めないだろうと言う予感もあった。だが結局、好奇心に負け、寝る前に浴室の中にカメラを設置し、その様子を撮影する事にした。
真夜中、物音で目が覚める。見に行けばシャワーのヘッドが転がっている。僕は朝を待ちきれず、カメラを回収してその映像を確かめた。
原因はすぐに分かった。浴室に写る人影、そしてそいつはホルダーからシャワーを取り上げ、床へと叩き付けたのだ。
僕はすぐに引っ越し先を決め、そちらへと移り住んだ。
今はもうそんな怪奇現象に悩まされる事もなく、無事に暮らしている。
良かったと思う反面、あれはやはり部屋が原因だったのか、それとも僕自身の問題だったのか。もしも後者であれば、また同じような現象が起こるだろうと危惧している。
なにしろあの映像に映っていた人影は、僕自身の姿だったのだから。
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