#188 『難聴』
妹が、ここ最近やけに耳の聞こえが悪い時があると言うので、私は近くの耳鼻科を薦めた。
行くには行ったのだが、二度目の検診で「異常無し」と追い返されて来た。それでも妹は、「やっぱりなんかおかしいんだよ」と言って譲らない。
ある日、家を出て一人暮らしをしている一番上の姉が、たまたま家へと帰って来た。駆け出しの美容師である姉は、妹を見て「カットモデルやって」と、半ば強引にヘアセットを始めてしまった。
最初は苦笑しながらも喜んでいた妹は、次第に顔色が悪くなり、最後の辺りは口数も少なく強張った表情をしていた。
姉が帰った後、どうしたのかと妹に聞いてみた。すると妹の答えは意外なものだった。
姉が自分の真横に立つ度に、難聴の時と同じ感覚になると言う。意味が良く分からない私は尚もその意味を問い質すと。姉が自分の横に立つ度、姉の身体が音を遮り、そちら側の耳が聞こえづらくなるのに気付いたのだと言う。
「もしも難聴でもなんでもないなら、誰かがいつも私の耳の横に立っているような想像が働いてしまって、気が気じゃなかった」と、妹は涙ぐむ。以降、妹は時折、左右を見回す行動を取るようになった。相変わらず、耳の聞こえが悪い時があるらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます