#527 『ゴーストタウン』
隣県に、とあるゴーストタウンがあると言う噂を聞いた。
僕は友人二人を誘って車で出掛けた。到着したのはもう間もなく零時を迎えようと言う時刻だった。
町から少しだけ離れ、長い林道を抜けた先にそれはあった。僅か七、八軒ほどの家が密集している、そんな場所である。
適当な空き地に車を停め、降り立つ。見れば建物自体はそれほど古くもなく、比較的最近になって人が住まなくなった場所だと分かる。
すると、同行した友人のUが、「いや、誰か住んでる」と言い出した。
彼は指を差す。その方向には確かに、窓に明かりが灯る一軒の家があった。
近寄ってみればそれは二階の窓の明かりだと言う事に気付く。レースのカーテン越しに照明が見えるが、中にいるであろう人の姿は無い。
「かろうじて人はいるらしいな」と、僕らはそこの住民に気を使いながら探索する事にした。
他の家々は、完全に空き家だった。中には玄関のドアが開きっぱなしで、簡単に踏み込めるような家まであった。
なんとなくだが、ここが無人となったのは二、三年程前ぐらいだろうと推測される。まだどの家も酷く汚れてはいないからだ。
外に出る。すると先程まで点いていた、例の家の二階の明かりが消えている。
時刻は既に一時を過ぎている。普通に寝ていてもおかしくはない時刻である。すると友人のUが、その家の一階部分に照明を当て、「なんか変だ」と言うのである。
僕らもその明かりの先を覗く。確かに変なのである。窓ガラス越しに見えるその家の内部は、他の家とは違って相当に荒れ果てているのだ。
「さっき電気が点いてたのは確かにこの家だよな?」と、もう一人の友人であるFが言う。
言いたい事は分かる。こんな廃屋に電気が通じている訳がないと言いたいのだ。
Fは割られた窓を見付け、中に入ってみると言い出した。僕とUは「やめよう」と反対したのだが、Fは頑なに「確かめる」と言って聞かない。
制止も敵わず侵入して行くFを見て、さすがに僕らも「おかしい」と気付き始めた。Fは普段から活発で行動的ではあるのだが、自ら進んで非常識な事をするような人間ではないのだ。
「やっぱ電気は点かない」と、中からFの声がした。
「人はいないから、入って来いよ」
僕とUは顔を見合わせ、渋々と中に踏み込む。
家の中は家財道具がそのまま残っていた。床には様々なものが散乱し、足の踏み場も無い。
「見ろよ」と、Fは言う。それを見て僕らは言葉を失う。それは、二階へと続く階段の“なれの果て”だった。階段は腐って落ちて、二階には上れなくなっていたのだ。
「じゃあ、二階の照明はどうやって点けたんだよ」
その疑問を解消すべく、僕らは手分けをしながら他に上がれる階段が無いかを探し始めた。
だが、無い。家の内側にも外側にも、それらしき場所は見当たらないのだ。
「雨樋を登る」と、Fが言い出す。危ないからやめろと僕らは止めるが、Fは言う事を聞かず懐中電灯を口に咥えて登り始める。
登ってすぐに、Fは手摺りから身を乗り出し、「来いよ」と僕らを誘う。
「嫌だ」、「いいから来いよ」と、そんな問答を続けていると、どこからか遠い悲鳴が聞こえた。
手摺りからFの姿が消える。それと同時に、悲鳴を上げるFが手摺りを乗り越え、二階から飛び降りて来た。
「どうしたんだよ?」聞くがFは答えず、早く帰ろうと車を目指すのだ。
帰りの道中、Fは二階の部屋で、やけに首の長い男を見たのだと言う。
いやお前、ずっと手摺りから僕らを呼んでいただろうと言うと、Fはそんな事はしていないと言うのだ。
後日、とある人からそこのゴーストタウンの噂を聞いた。
二階のある家には入ってはならないと。そこの家が原因で、そこの集落の人達は皆、そこを離れたのだと言うのである。
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