#528 『深夜の電話』

 聞きたてホヤホヤの、旬な怪談をお届けしたい。

 筆者と同じ、写真と映像の仕事をしているKさんのお話しである。

 ――早朝、まだ外が薄暗い時刻の事である。隣で寝ている旦那の話し声で目が覚めた。

 見れば旦那はベッドの上に起き上がり、誰かとスマートフォンで通話をしている。

 まだこんな暗い時分の事である。普通の電話であろう筈がない。咄嗟に思い付くのは、二日前から昏睡状態が続く、義理の姉の様態だ。

「姉さんが亡くなった」と、通話を終えた旦那が言う。深夜一時頃の事らしい。

 義姉と旦那はそれほど仲が良い方ではなかった。義姉が旦那へと用事がある時は、いつも私に連絡をして旦那へと経由していたぐらいだった。それでもやはり実の姉が亡くなった事には堪えたのだろう、ベッドの上で神妙な顔をしている。

 まだ起きるには早いが、さすがにもう眠れそうにはない。私は枕元に置いたスマートフォンを取り上げ、時間を確認する。――午前四時二十五分。道理で暗い訳だと思いながら、何気なくLINEを起動させる。

 何故か、トークの一番上に亡くなった筈の義姉のアカウントが来ていた。

 どうして? 二日間も昏睡状態が続いていて、スマートフォンなど触れる筈もないのに。

 思いながらそれを開けると、それはメッセージなどではなく、無料通話の記録だった。しかもそれは相互通話となっていて、一分二十秒程の通話時間が記録されていた。

 通話の時刻は深夜の一時。ちょうど義姉の亡くなったとされる時刻だ。私は慌てて、「昨晩、私、誰かと電話していた?」と旦那に聞けば、毎晩夜遅くまで起きている彼は、「電話? お前が?」と聞き返される始末。

 当然、私はその通話を覚えていない。例え寝ぼけていたとしても、一分以上もの会話が、全く記憶に残らない筈が無い。

 そして私は更にもう一つ、不可解な事実に気が付いた。義姉は生前、私の真似をして、スマートフォンのロックは顔認証にしていたのだ。

 この出来事が全て事実だとするならば、昏睡状態の義姉は自らが亡くなった時刻に、目を開けた状態でスマートフォンの顔認証をパスして、LINEから無料通話を行ったと言う事である。

「これから姉の顔を見に行くんだが、お前も来るか?」

 暗い部屋の中、着替え始めた旦那にそう聞かれ、私は「ううん」と首を横に振った。

 どうしても脳裏に浮かぶのは、目を開けたまま眠りに就く義姉の姿だったからである。

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