#773 『怒鳴り声』
深夜の事だった。もう完全に深い眠りに就いていたであろう私は、突然のけたたましい怒鳴り声で目が覚めた。
喧嘩らしい。一瞬で、「家の中だ」と察した。――が、怒鳴っている人達が誰なのかが分からない。
聞けばどちらも女だと言う事は分かる。だが家の中に、該当するであろう人がいないのだ。
声は一階の方から聞こえる。一階には祖父と父がいる。二階には兄と妹がいるが、どう聞いてもそれは妹のあげる罵声ではない。なにしろ妹はまだ小学生なのだから。
部屋から顔を出せば、廊下には兄の姿。兄は私を見付け、「行くか?」と無言で階下を指差す。
足音を忍ばせて下りて行けば、階下では今起きたのだろう父が部屋から顔を出し、「ばあちゃんの部屋だな」と呟いた。
それは確かに祖母が生前使っていた部屋だ。今はもう誰もその部屋にはいない筈なのだが、どう聞いても声はそこから聞こえるのだ。
今度は祖父の部屋の襖が開いた。同時に、「もう我慢ならん」と声がして、一気にその部屋の声が五から六人程に増えた。
「誰がいるんだ」と祖父は驚き、私達が止めるのも聞かず祖母の部屋を開ける。――と、同時にその罵声も止む。
見れば祖母の部屋には人形が散らばっていた。祖母が生前に収集していた日本人形だ。
まさかとは思ったが、他に原因らしきものは見当たらない。
そこに、今起きて来たのだろう妹が現われた。妹はそっと部屋の中へと入って来て、その散らばった人形の中から一つ、やけに汚くみすぼらしい海外製の人形を取り上げた。
「それ――」と、聞く間も無かった。妹は「連れて来ちゃ駄目だったみたいね」とその人形を胸に抱き、部屋を出て行った。
翌日、妹はその人形をどう始末したかは分からない。だが、「もう連れて来ないから」と言う以上、それなりの対処はしたのだろう。
妹の言う通り、それっきり家でおかしな現象が起こる事は無かったのだが、その問題の人形と同じく、感情的に動いて怒鳴る人形が後数体、祖母の部屋にあると言う事だけは間違い無かった。
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