#644 『どっきりを仕掛けられた話』
社内で使う廃棄物処理手順の書類を作成した。何度かの駄目出しの後、ようやく係長からオッケーの返事をもらう。
僕は安堵の息を吐き出し、その書類を印刷に掛ける。そしてコピー機から吐き出されて来た書類をまとめ、机の上に置いたままトイレへと向かった。
だが帰って来るとその書類が無い。今しがたそこに置いたばかりなのにと困りながらも、結局僕はもう一部を印刷する。
そしてその書類を持って、あらためて係長の下へとハンコをもらいに行くのだが、係長は僕の顔を見るなり「また?」と聞くのである。
「また――とはどう言う意味ですか?」問えば係長は、「さっきハンコもらいに来たばかりじゃない」と言うのだ。
「いや、そんな筈は無いでしょう」と僕は笑い、「作成時に何度もこの書類に目を通したもんだから、そんな気になっているのでは?」と、ハンコをせがむ。
次は課長である。だが課長もまた僕の顔を見るなり、「もう一回押すの?」と聞くのだ。
どうやら僕以外の人が、既に同じ書類にハンコをもらって歩いているらしい。僕が「どこのどいつですか?」と聞けば、「君自身だけど」と課長。僕は首を傾げながら今度は部長の下へと向かう。そして書類を差し出せば、部長は僕の顔を睨みながら、「ここに来るまでに同じ事言われた?」と聞いて来た。
「はぁ……まぁ、そうですね」言うと部長は机の中から全く同じ書類を出して来て、「君はさっきもこれ持ってここに来たんだよね」と言う。
「どう言う事なんでしょうかね」聞けば部長は、「何年か毎にそう言う事起きるんだよね」と笑う。
部長は「気にするな」と言うのだが、僕にとってはそうも行かない。
「誰の仕業なんですか?」聞いても部長は「知らないよ」と笑うだけ。
「どっきり仕掛けられたと思って諦めたら?」
言われても納得は出来ない。渋々と席へと戻ると、さっき無くなった筈の書類の束が机の上に置かれてある。
「これ、誰が?」と、隣の同僚に聞けば、「君が置いて行ったけど?」と、不思議そうな顔で言う。
結局、二部印刷した筈の書類は、三部存在する事となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます