#645 『子供の声』

 ある時期から、私の住むマンションにて騒音被害が起こる事となった。

 被害の内容は、毎晩零時を過ぎた辺りからマンションの廊下に奇声を上げながら走り回る子供の集団が現われると言うもの。

 どうやらその子供達は、鬼ごっこか隠れん坊等の遊びをしている様子で、とにかく楽しそうに大声を上げながら駆け回っているのだ。

 当然その声と足音は、寝静まったマンションの各部屋に聞こえている。被害者はマンションの住人全てだ。中には怒り心頭で、見つけ次第とっ捕まえて警察に突き出してやると言い出す人もいる。

 だが不思議と、その子供達の姿を見たと言う人が現われない。とうとうマンションの住人達で自警団が結成され、夜の見張り番を行う事となった。

 さてその翌日、見張りに当たった人達の証言に依ると、子供達はターゲットを自警団の方へと向けたのではないかと言う事。

 子供の声がする方へと大人達が駆け寄れば、どこをどうすり抜けて逃げるのか、子供達との距離はまるで縮まらない。まるで大人達をあざ笑うかのように逃げ回っているのだ。

「数を増やそう」と言う事になった。そしてその頭数には私も加わった。

 さてその晩、やはり子供達は現われた。だが声はすれどもその姿がまるで掴めない。自警団の団長曰く、数の上で勝っているので、無理に追い掛けなくていいから持ち場を離れず待機していてくれとの指示。そして私が割り振られたのは三階南東の踊り場である。

「奈倉さん、そっち向かいました~!」と、私を呼ぶ階下の主婦の人の声が上がる。

 さぁ来いとばかりに私は気を引き締めるが――誰も来ない。気が付けば私の頭上辺りで奇声を上げながら駆け抜ける子供達の足音が聞こえる。

「逃がしましたか?」と、階下から自警団の追尾班が来る。「いいえ、誰も来ませんでしたが」と私が答えると、「そんな訳無いじゃないですか」と、不満そうな顔をされる。

 だが、時間が経つにつれそんな事を言われるのは私だけでは無かった事を知る。これだけの大捕物であるのに、何故か子供達の姿を確認出来た人がいないのである。

 明け方近く、「これは無理」と言う結論でその夜の追跡は終了した。

「これは捕まえると言うよりも、お祓いの方が効果あるのでは?」と、そんな意見が出て来た。

 それには誰もが納得をし、そうするかと決定しそうになったのだが、何故かそれ以降、子供達は現われなくなった。

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